小説 | ナノ


▼ 14

「いらっしゃいませー!」
「奥の二人席、空いていますか」

昔からいるおばちゃんが出迎えてくれる。流石に鳴がいるのにカウンターってわけにはいかないだろう。私が伝えれば、店内の空席を把握しているらしく、すぐに笑顔でテーブル席へ案内してくれた。

が、しかし。

「あーっ!!」
「……げ、沢村」
「成宮鳴!なぜこんなところに!」

まさか、とは思ったけれど、奥まったテーブル席の隣にいたのは沢村くん。それともう一人、確か一年生の時からレギュラーに入っていた子。だったと思う。

「プロが何故!こんな場所に!」
「ラーメン食いにだよ」

寮暮らしの野球部って帰省しているものかと思ったけど、まだ残っている子もいるんだ。最後の学年だからかな。

「……何故!?」
「なぜじゃねえし」
「栄純くん、邪魔しないの」

日に焼けたような髪色をした、確か先輩も野球部にいた子が沢村くんの頭を叩く。だけど沢村くんは騒がしいままこちらを見る。ぎゃーぎゃー言っている後輩たちを放って、私が奥側、鳴には入り口に背を向けるようかけてもらった。

「だって春っち!糸ヶ丘先輩が!」
「私?」
「なぜ成宮鳴なんかと!?」

そりゃ知るはずもないか。私が鳴と関わりあるなんて、御幸くんにしか喋っていないし。鳴は無視してメニューを見ているし、私も説明が面倒だから省略しつつ伝えることにした。

「家庭教師の先生が、鳴のお姉さんだったの」
「……名前呼び!?」
「先生と名字同じだから」
「……なるほど!?」

納得してくれたのか、沢村くんはそれならばと頷いている。しかし、春っちの方はチラチラとこちらを見てくるので、何か気になっているようだ。

「春っちくん、私に何か?」

気になって声をかければ、やはり聞きたかったことがあるらしい、すぐに尋ねてくる。

「あの、糸ヶ丘先輩って」
「うん?」
「御幸先輩と仲良かった方ですよね」
「うーん、それなりに?」
「御幸先輩とは今も?」

御幸くんもプロ野球選手となっている。だけど鳴とは違う球団で、場所も遠いから全然会っちゃいない。連絡なんて元々サッパリだ。もしかしたら後輩くんたちも、同じなのかもしれない。

「ごめんね、御幸くんの近況は知らないんだ」
「いえ、近況聞きたかったわけではなくて」
「?」

なら何を。なんて首を傾ければ、正面から声をかけられる。

「かのえ、おれ醤油ラーメン」
「あ、うん、チャーハンセットね」

私と春っちくんのやり取りに、メニューを閉じた鳴が口を挟む。手をあげたらすぐに来てくれたおばちゃんに、私の塩ラーメンを加えて注文した。春っちくんとの会話が途中だったなあと声をかけようとすれば、先に鳴が声をかける。

「小湊だっけ」
「はい」

「一也どうこう聞く前に、この状況みて分かんない?」

メニューをたたみ、テーブルの端に立てた鳴が肩ひじついて隣のテーブルを見る。春っちくん、もとい小湊くんは、困ったような表情をしていた。

「……お二人はどういう関係なんですか」

まさか小湊くんから聞かれるとは。沢村くんなら騒いで聞いてくれるかなって思ったけど。

「……って聞かれたけど、どうなんですか成宮さん」

初対面の私が答える、のはおかしいよね。なんて言い訳をして、鳴の言葉を待つ。さっき移動中に話していたところだ。


(友人とは言わない)
(なら何ていうの?)

(……もし聞かれたら、その時に言う)


さて、なんて紹介してくれるのかな。”お姉さんの教え子”というのは、さっきもう言った。これを改めて言われるくらいなら、もう今後は期待できないかも。

平然を装って、鳴をみる。鳴も同じ様子だ。しれっとした振りをしているけど、いつもよりちょっとだけ下唇が出ている。

なんて言ってくれるのかな。待っていれば、鳴はひじをついたまま彼らに言う。


「……俺の、一番仲いい子」


一番仲いい子。まるで小学生みたいな紹介の仕方に、ちょっとだけ笑ってしまう。だけど一番か、うん、それなら充分かな。

「らしいよ、小湊くん」
「そうなんですね」

嬉しさが抑えきれなくて、私も正面じゃなく隣をみてそう伝える。ほほの緩みが止められなくて、小湊くんたちには表情がバレてしまっているかも。だけどいいかな。

(お姉さんの教え子から、一番仲いい子にまで進んだし)

随分とちんたらしているけれど、多少の進歩はあったみたいだ。ちょうどきたラーメンの熱に顔をあたためてもらいながら、私たちはようやく夕飯にありつこうとした。

……のだけれど。


「しかし糸ヶ丘先輩!」
「うん?」
「御幸一也にとって先輩は唯一の女友達ですから!」
「どうだろうね」
「ですから御幸一也も見捨てないでやってください!」
「うっせえな沢村!雰囲気ぶち壊すなよ!」

食べ終わった沢村くんがちょっかい出してきたりしていたけれど、そのうち小湊くんに引っ張られて帰っていった。会えてよかったな。そうじゃなきゃ、鳴からあんな言葉聞けなかっただろうし。

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