小説 | ナノ


▼ 10

年が明けた3学期の始業式、帰りのSHRが終わったら何やら廊下が騒がしい。冬休みで会えなかったのと、年始の挨拶なんかで多少盛り上がる気持ちは分かる。

……それにしたって騒ぎ過ぎだ。


「ねえ御幸くん、廊下騒がしくない?」
「確かに」

2学期最後の席替えで、私は窓側最後列になった。御幸くんはその隣。私と同じく教室から出ていない彼に分かるはずもないだろうに、何となく聞いてしまう。そしたら心当たりがあるのか、「あ、」と声をもらした。


「……もしかしてあいつ、本当に来たのか」
「あいつ?」
「実は「始業式いつ?」って連絡あってさ」

私の質問には答えずに、話を進めていく御幸くん。
もう帰った人もいて、いつもより人が少ないはずなのに、廊下がうるさい。というか、なんだかキャーキャー聞こえる。誰か告白でもしているのだろうか。

ちょっとため息をついてドアの方を見ていたら、懐かしい顔が現れた。


「いた」


思いもよらない来訪者に、目を丸くする。御幸くんを見つけるとずんずん歩いてきた。

「ねえ、」
「……えっ私?」
「しかいないよね?」
「ここに御幸くんが、」
「一也に用事なんてねーし」

「ひでーな、色々教えてやったのに」
「うっさい黙ってろ」

数カ月に生でみる成宮鳴。なぜここに。

「色々?」
「一也の言う事は気にしなくていいよ」
「実は鳴がさー、」
「一也ほんと黙れ」

よく分からないけれど、黄色い歓声は彼へのものだったのか。ようやく納得した。私に用事だと言いながら、御幸くんと話をしているけれど。

「かのえちゃんって、鳴ちゃんと仲いいの!?」

前に居たクラスメイトが振り向いて聞いてくる。

「うん、仲いいよ」

そう返事をして、鳴の方をみる。怒られるかな、なんて少し思ったけれど、鳴はおでこを真っ赤にしてこちらを見ていた。

「な、仲良くないし!」
「えー、仲いいと思っていたの私だけだったんだ?」
「仲良くないって言ったのそっちじゃん!」
「仲はいいと思っていたよ、プロ行くと思っていなかっただけ」
「行くに決まってんじゃん!俺なんだから!」
「そうだね、おめでとう」

あのちょっとしたすれ違いから数カ月、会いはしなかったけれど、テレビで一方的に鳴のことは見ていた。

「鳴、学校は?」
「稲実は明日が始業式」
「何しに来たの?」
「……これ」

差し出されたのは、小さなお守り。去年一緒にお参りへ行った、鳴の家の近くの神社の名前がある。

「……お守り?」
「受験ってもうすぐなんでしょ」
「くれるの?」
「そっちが祈れって言ったんじゃん!」
「覚えててくれたんだ?」

嬉しい。そう呟けば、また鳴は「たまたま思い出しただけ」と声を荒げる。ちょっとうるさいけど、廊下のギャラリーに比べたらマシだ。


「大学、どこ受けるの」
「共通試験の結果次第かな」
「俺の行く球団、近くに医学部あるよ」

瞬きをして、彼を見上げる。

「……へえ」
「っ何そのリアクション!」
「いやあ、流石にそこはレベル高いから」
「俺のお守りあるんだから、満点取ってよ!」
「んな無茶な」

共通試験を分かってか分からずか、とんでもないリクエストをしてくる鳴。御幸くんは笑っているし、鳴は怒っているし、何だこの状況は。


「おい鳴、お前何しにきたんだよ」
「うっさい!」
「お守り渡しに来てくれたんでしょ?」
「違うし!」
「えっ」

私のために来てくれたかと思って自惚れたのに。ちょっと恥ずかしいじゃないか。

「じゃあ何しに来たの」

そう思ったが、今だ顔が赤い鳴をみると、やはり自惚れていい気がする。


「……お守り渡しにと、」
「と?」

「プロになるって報告と、」
「と?」


「……れ、連絡先、交換しておこうかなって」


1年半かかって、ようやく連絡先を交換した。このとんでもないローペースに笑えてきたが、それを笑い話にして盛り上がるのは10年後、ようやく私の名字が変わる頃であった。

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