小説 | ナノ


▼ 06

ごめん、タクシー呼んでおくから。


成宮先生からそんな連絡が入ったのは、初詣に出かける1時間前。高校3年生になるとそんな暇ないだろうから、今年のうちに合格祈願をしに行こう。そう言ってくれたのは年末のこと。いつもならすぐ近くの小さな神社へ行くのだが、気晴らしついでに成宮先生の家の近くの、屋台の出る神社へ行くことになっていた。

電車で3駅ないのに、わざわざタクシーを呼んでもらうなんて申し訳ない。そう返信しようと思ったら、チャイムが鳴った。


「……なんで、」
「ねーちゃんが、女の子ひとりで歩かせるなって」

随分と厚着をして体型も分からないし、マフラーでぐるぐる巻きになっているから顔が半分も見えないけれど、玄関先に立っていたのは間違いなく鳴だった。


「成宮先生は?」
「彼氏が突然帰って来られることになったって荒れてた」
「えっなら私のことなんていいのに」
「でも約束の時間には神社行くって」
「なんだか申し訳ないなあ」

喧嘩と仲直りを20回くらい繰り返している彼氏さんと、年越し前から険悪になっていたそうな。流石に喧嘩しすぎだとも思うけど、好きゆえのってパターンだと思う。前に会わせてもらったけど、成宮先生のことを本当に大事にしていた。


「とりあえず、神社まで行こ」


そういって、鳴は顎をしゃくって外へ行こうとする。5分待ってと言い、急いで部屋へ戻って上着をマフラーをひっつかむ。服は着替えてあってよかった。いつも使っている鞄には、ポーチと財布が入れっぱなしだ。それを掴んで、手袋をつっこんで、また階段を駆け下りた。


「お、おまたせ!」
「いーよ、行こ」
「……その前に、何かあるんじゃないかな?」

別に普段からよく会っているわけでもないが、一応新年初めて顔を合わせたわけだ。年始の挨拶くらいあってもいいと思う。


「……私服、めっちゃ可愛い」


待っていた言葉と全然違うものが呟かれ、私は一瞬の間をあけてから、かあっと熱くなる。


「なななんでっ!そうじゃないじゃん!」
「は!?じゃあなんて言ってほしいのさ!」
「あけましておめでとうだよ!普通に考えてそうでしょ!」
「んなもん言わなくても明けてんじゃん!」

なんだか喧嘩腰に言いあってしまう。その様子が気になったのか、お雑煮を作っていたお母さんが台所から「どうしたのー」なんて言っている。しまった、男の子が迎えに来たなんてバレたら面倒だ。私は冷たくなっている鳴の手を掴んで、急いで外へ出た。

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