小説 | ナノ


▼ 05

稲実茶道部との合同茶会の日、私はようやく御幸くんの笑っていた理由を悟った。


「だーかーら!俺がヤダって言ってんじゃん!」
「でも鳴さん、俺の練習付き合ってくれるって」
「今はバッティングしたいの!また明日!」
「えぇー!」


今、前を横切ったのは誰だったのか。

お手洗いから返ってくる途中、校舎と校舎を繋ぐ一階の外廊下を横切ったのは、おそらく鳴だと思われる人と、おそらく後輩だと思われる人。後輩は知らない子だけど、あの鳴らしき人は本当に鳴なのか。


ぼけーっとして彼らの歩いて行った左側を見ていれば、また右から別の人が現れる。外国人だ、と圧倒されたが、当然のように日本語で話しかけられた。

「あれ、大和撫子じゃん」
「こ、こんにちは」

大和撫子、と呼ばれ返事するのはどうかと思うが、浴衣を着ているとそういう声かけも多い。今日は茶会だから、久しぶりに着付をして、髪も整えた。


「何年生? 名前は?」
「すみません、稲実生じゃないです」
「そうなの?何年生? 名前は?」

どっちにしろその情報を聞くのか。言うべきか悩んでいたら、鳴が戻ってきた。


「カールロ!ナンパするなら俺も誘って……よ?」
「……こんにちは」

分かっていたけど、あらためて青い瞳と目が合い、本当に彼なんだと認識する。だって、あまりにも私が今まで喋っていた鳴と違ったから。なんだか馴れ馴れしく呼ぶのも気が引けてきた。

「あ、ちょ、ちょっと待って!」
「……そろそろ戻らないと」

頭を下げて、二人の間を通り抜ける。浴衣だから、走りにくい。少し寒いくらいの気温だったのに、恥ずかしさから頬が熱くなる。ああいうタイプの人だったんだ、鳴って。



「どうした鳴、そんなタイプだった?」
「カルロのバカ!アホ!」
「なんだよ突然……」

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