小説 | ナノ


▼ 前準備

「1回戦終わったねー」
「青道残っているな」
「私たちが観る日にいたりして!」
「……ベンチ敵側だったら、どうしようなー」

8月中旬の夜、私の部屋で、今日は寝転がらずにきちんとソファに座っている一也。私は若干前のめりになりながら、今日の試合の振り返り番組を観ていた。

どっち側のチケットでも良いとは言っていたけれど、流石に青道戦を敵チーム側から観るのは不味い。私もそれは分かる。

「あれ、4回戦ってトーナメント出ないの?」
「トーナメント組み直すんだよ、3回戦勝ったチームが試合後にくじ引いて」
「誰が引くの?」
「主将」
「……なんでくじ運悪いのに一也が主将だったんだろう」
「おーい、心の声もれてるぞー」

てっきり、トーナメントは決勝まで続いていくと思っていた。今みてみたら、3回戦までのトーナメント表しかない。3回戦を突破したチームから順番に、4回戦の抽選をする、とのことだ。

「じゃあ青道がどっち側かは、青道が3回戦突破しないと分からないわけだ」
「そういうこと」
「もし反対側になったら、一也は変装しなきゃだね」
「いやほんと、そうするしか無さそうだよな」

私たちが取ったチケットは1塁側。青道の反対になったとしたら、随分気まずい雰囲気となる。しかもテレビに映っちゃいそうな席だし。


「そういえば、このチケットでその日の試合全部観られるんだっけ」
「そうだな」
「じゃあ朝から行った方がいいよね」
「……4試合全部見るつもりか? 流石に厳しいと思うけど」
「なんで?」

せっかく全部観られるのなら、全部観たい。そう伝えたのに、一也は反対してくる。

「野球って予定より長引くし、2試合くらいが限界だと思うぞ」
「そういうもの?」
「俺だって4試合も観るのしんどいわ」
「えっ野球バカの一也ですら?」

そう言われると、私が4試合全部みるのはキツイかもしれない。2試合か。

「あ、なら1試合目と4試合目観て、間で一旦退場しようよ」
「残念ながら再入場はできませーん」
「そうなの!?」

指定席だから、いつでも入退場できると思っていた。席は丸一日抑えられているのに、4試合全部も観ないってなると、観ない試合の間は空席になってしまう。何とも勿体ない。

「何試合目を観るかは、組み合わせ決まってから考えるか」
「うん、それがいいかも」

もしかしたら青道が上がってくるかもしれないし、一也の興味ある高校が出るかもしれない。ここは任せてしまった方がよさそうだ。



「そういえば、持ち物って何がいる?」
「高校の時と同じでいいと思うけど」
「高校の時、何も持っていってない」
「……マジ?」

一也の応援に行くときはいつも制服だったから、中身そのままのスクールバッグを持っていた。だから持ち物と言えば財布とタオルと水筒。そのくらいだ。

「財布とタオルと水筒くらいでいい?」
「そうだなー、できればプラスで帽子とカッパかな」
「カッパ?」

帽子は日差し対策かな。なんでカッパ。

「ちょっとの雨なら試合するけど、傘させねえし」
「なるほど」
「あと、鞄大きくなるならビニール袋あるといいかも」
「それはどうして?」
「座席下、ドリンクこぼれていたりするから」
「なるほど」

逐一説明をもらえるから、きちんと納得しながら覚えられる。でもケータイのメモにも入力していく。

「それと、俺はいいけどそっちは小銭多めのがいいかもな」
「私は?一也はいいのに?」
「どうせビール飲みたくなるんだろ?」
「う゛っ」

指摘が胸に刺さる。そういえば、いつだったかに「高校野球でもビール売りのお姉さんいるんだね〜」なんて話をしていたのを思い出した。そんな、高校生たちが頑張っている中でビールを飲みたくりたいだなんて思っちゃいない。思っちゃいないけど。

「ま、まあ?せっかくだし記念に1杯くらいは飲むかなー?」
「1杯で済むかなー」
「試合が盛り上がったりしても変わるけど!ほら、盛り上がりってあるし!」
「……小銭、たくさん用意しておけよ」

ビール売りのお姉さんは、観客席の通路を歩いてくれるらしい。私たちの席は通路側だから受け渡しがしやすいとはいえ、おつりのやり取りでわたわたしてしまうのは申し訳ない。小銭、準備しておこう。


「ま、向こうにも色々売っているから、忘れたら買い足せばいいし」
「うーん、そうかなあ」
「いつもの調子で来ればいいって」
「じゃあそうする」

とりあえずそこで、話は一旦まとまった。
一也ったら、「行けばいい」じゃなくて「来ればいい」だなんて、まるで球場が自分の居場所のような言い方だ。やっぱり野球バカなんだなあと、一也にバレないようにこっそり笑ってしまった。

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