小説 | ナノ


▼ チケット発売日

「……よし、取れた!」

自室のパソコン前で、私はひとり喜びの声をあげる。

店頭販売があるならいっそ並ぼうと思っていたのだが、どうやらネット販売のみらしい。よく使うチケットサイトばかりだったので、前もって会員登録をする必要もなく、決済方法なんかも登録済で助かった。

ただ、座席は選べなかったので、どこが取れたのかは発券しないと分からないらしい。どうせ今から一也の部屋へ向かうつもりだし、コンビニへ寄って発券してから行こうっと。



「一也―!取れた!」
「おー、サンキュ」

やっぱり頼んでよかった。そう言われて、こっちも嬉しくなる。でもこんな小さなことで喜んでいると知られたくない私は、報告に戻そうと、先ほど発券してきたばかりのチケットを鞄から取り出した。

「ほら、2枚!」
「もう発券してきたのか」
「発券期限が明後日までだったから、忘れない内にって思って」
「そういうとこ、しっかりしていてくれて助かるわ」
「一也がだらしないだけな気もする」
「……まー、そこはバランス良くなるし、ちょうどいいってことにして」

何がバランス良いのか分からないけれど、確かに一也がだらしない時でも私がちゃんとしてあげればいいかな。チケットを受け取った一也は日程やエリアが合っていのかを確認をして、うんと頷いて私に戻してきた。

「そうだ一也」
「ん?」
「座席どの辺りか分かる?」
「流石に座席表までは覚えちゃいねーわ」

そりゃそうだ。私は自分のケータイを取り出して、「甲子園球場 座席表」と検索する。一塁側の、えーっと、列は何だっけな。チケットとケータイと視線を交互にしながら、座席を確認する。

あれ、これは。


「……ねえ一也」
「どした?」
「観客席って、テレビ映るっけ」
「よっぽどベンチ前じゃないと映らねえと思うけど」

つまり、よっぽどベンチ前だったら映ってしまうかもしれない。焦りながら、一也に今しがた調べた甲子園球場の座席表を見せる。

「取れた席、どこらへん」
「……ベンチ真後ろ」
「おー……こんな席、取れるもんなんだな」
「こういう場所って普通関係者席じゃないの!?」

一也は素直に感心している。てっきり、こんな前方は関係者席になっているのかと思っていたのに。一般席で売られているだなんて思いもしなかった。

「ま、関係者はバックネット裏だからな」
「バックネット裏?」
「キャッチャーの背中の方」
「へえ」

なるほど、見やすいところで観るのね。しかし、そう考えるとやはり私が取った席は、あんまり良くないのでは。いつものライブだったらこんなにも前で喜べたのに、せっかくの一也と野球観戦。妙な席になってしまった。

「……ごめんね」
「え、なんで謝った?」
「だって、もっと見やすい席が良かったのに」
「これ以上見やすい席もないだろ」
「えーでも上の方がいいんじゃないの?」

一也は慰めてくれるけど、でも絶対に見にくい。だって一也の試合を観に行っていた時、他校のユニフォームを来た人たちはこんな前で観ていなかった。もっと中段くらいの、絶妙なところにいたはずだ。

「まあ試合全体見るなら上のが見やすいけど」
「やっぱりそうじゃん」
「でも、選手見るってんなら前のが楽しいって」
「えーそうかな」
「元高校球児を信じなさい」

そう言ってくれるなら、信じてみようかな。どっちにしろ、わがまま言ったところで席が変わるわけでもない。取れたんだから、この席で精一杯楽しもう。うん。

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