小説 | ナノ


▼ お誘い

「一也、一也」
「ん?」

ソファに座りテレビで高校球児を見ていた私は、私の太ももを枕にして休んでいる一也に声をかける。一也はいつもの調子で、半分寝ながら返事をくれた。

「甲子園、観に行きたい」
「……は?」

だけど、いつもと違ってパチリと目を見開いてこちらを見上げてくる。うつろうつろしていたのに、目が覚めたようだ。

「今、なんて言った?」
「甲子園」
「なんで突然」
「高校野球、久しぶりに観たいなーって」

というか、一也と高校野球を観に行ってみたい。そう思っての願望だったのだが、一也は起き上がってソファに座り、テーブルに置いてあったメガネをかけてテレビを観る。

「……なに、どっかに好みのイケメンでもいた?」

半分寝ていただろうに、テレビから流れる甲子園特集には耳を傾けていたらしい。

「うん」
「どこの高校?」
「青道の、元キャッチャーさん」
「……あっそ」

照れているのか、あっさり流される。ったく、未だにこんな小さい嫉妬をされるのは、よほど私に信用がないんだろうか。

「好みのイケメンはもう卒業してるけど」
「どこの高校でもいい、観に行ってみたい」
「なんで突然」
「応援席で盛り上がってみたい」
「俺が現役の時も行っただろ」
「だって高校時代はバス乗って着いて、流されるままに応援席だったから」
「あー、そっか」

青道が甲子園に出場した時も応援に行ったけど、団体行動だったから近くの球場と同じような気分だった。せっかくだから、もっと楽しみたかったなあと、今更になって思う。

「そっちはいつ暇?」
「連れて行ってくれるの?」
「日程合って、チケット取れたらな」
「やった!」

一也からオッケーが出たので、ウキウキでケータイのスケジュール帳を起動させる。8月の……いつからなんだろう。

「ねえ、甲子園っていつからいつまで?」
「今年は8月9日が開会式で、雨降らなきゃ24日に決勝予定だったと思う」
「オススメはいつ頃?」
「オススメって初めて聞かれたな」

そう言いながら、一也は私のケータイを覗き込む。別に知られちゃ駄目な予定もないので、そのままケータイを渡した。

「どうせなら後半の方がいいけど、お盆の方が俺らの休み合わせやすいかな」
「なんで後半?」
「そりゃ勝ち上がってきたチーム同士だから」

確かに、強いチーム同士の対戦は盛り上がりそうだ。

「なら青道が試合する日に行きたい」
「残念ながら、組み合わせ抽選はチケット発売の後なんだよなー」
「そうなの!?」

まさかどの高校がいつ戦うかも分からないまま、予定を組まなきゃいけないだなんて。
でもそういうことなら逆に、応援したいチーム云々を考えず自分たちの都合だけで日程を選べる。それならお盆休みがちょうどいいかも。

「一也は青道じゃなくてもいいの?」
「地方予選勝ち上がってくるレベルなら、大体目当てになるよ」
「ならお盆明けにしよ、お盆はバタバタしているし」
「じゃあ4回戦狙いでチケット取るかな」
「わーい!」
「あ、そういえば7月も空いてる?」

あとは任せちゃおう。そう思っていたのに、一也から7月の予定も聞かれた。なんでだろ。

「そこそこには暇あるよ」
「じゃあチケット取るのよろしく」
「えっ!?なんで!?」
「昔と制度変わって、前売券になってんだよ」
「えー私取れるかな……」
「大丈夫、よく取っているライブのチケットとかと同じだから」

そう言われて調べてみると確かに、普段登録しているチケットサイトの名前が並ぶ。なるほど、ライブのチケットと同じ要領で取ればいいんだ。

「あ、これなら大丈夫かも」
「発売日の10時、空いてる?」
「うん、任せといて!」

全部一也に任せるつもりだったけど、これなら私も役立てそう。一也、ネットとか疎いし。

「ちなみに今まではどうしていたの?」
「ん?当日球場に並んで買ってた」
「……前売りになってよかった〜」

流石にあんな炎天下の中、並ぶ体力なんてもうない。クーラーの効いた部屋で、頑張ってチケットを取ろう。

そう思いながら、発売前と表示されているページを眺める。あれ。


「ねえねえ、同じ日に何種類もある」
「ん? あー、エリアは決まってんのか」
「安いのは外野?アルプスって高校の応援入るとこだよね?」
「そ。でも外野もアルプスも屋根ないから止めた方がいいな」

一也に言われて、それは確かにイヤだからすぐに止めた。一番高くても五千円しないし、ライブと比べたら全然安い。

「一塁側と三塁側は分かるけど……中央特別指定席ってどこ?」
「キャッチャーの背中側。屋根は一番広いし、どっち応援するって決まってないならいいかもな」
「つまり、応援する高校決まっていたらどっちかのベンチ側のがいいのね」

中間よりも、一塁か三塁かに寄っていた方が、応援が盛り上がっているはずだ。それなら盛り上がっているエリアの方がいいけれど、もしかしたら一也と因縁のある高校側になるかもしれない。むむ、どうしよう。

なんて悩んでいたのが、バレてしまったのかもしれない。

「……ま、せっかくだから1塁側か3塁側かのチケットにするか」
「……いいの?」
「何が?」

私に気を遣ってくれたことは一目瞭然なのに、知らぬ振りをしてくれる一也。嬉しくなって、彼の腕にもたれかかる。

「どしたんだ、急に甘えてきて」
「えへへ、チケット頑張って取るね」
「よろしく頼む」

野球のことで、一也に頼まれ事をされるのは初めてだ。私も口出ししたことなかったし、一也が言ってきたこともない。チケット発売日、絶対にいい席ゲットしてやるんだから。

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