小説 | ナノ


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「おっ!”女子アナストライク”が来たぞ〜」
「……週刊誌ネタやめてくれない?」


稲実メンバーでの忘年会、登場して早々、最悪なヤジを飛ばされた。

あらためてかのえちゃんが好きだと気付いた俺が四苦八苦している間に、彼女は大学を卒業して女子アナウンサーになっていた。

「大体!明大いったヤツらが連絡先入手できないって何!?」
「だって糸ヶ丘先輩、すげーガード固いんだよ」

あれから数年、いまだに俺はかのえちゃんと連絡すら取れていなかった。かのえちゃんと同じ大学に進学した同級生や先輩に頼んだりしたのに、かのえちゃんはあんまり連絡先交換したりしていないっぽくて駄目だった。

「……この俺ですら交換できなかったんだから当然だけどさ」
「じゃあ頼むなよ」
「だって他にいないんだもん!」
「だからって他の女子アナに頼むかあ?」
「う゛っ」

そんなこと言われたって、野球部の交友関係でムリならそれしか思いつかないんだから仕方ないじゃん。青道のやつらはよっぽど俺がキライなのか、そもそも連絡取り合ってくれないし。俺と一也は連絡取るけど、かのえちゃんの番号は教えてくれない。

「だってさー……かのえちゃん局アナじゃないし」
「局アナだったら何とかなったのか?」
「〇〇アナが取材来たら嬉しいなーって言えば来てくれるんだって」
「流石成宮投手、女子アナに詳しい」
「俺はやってないから、断じて違うから」

会いたいアナウンサーがいるってぼやいたら、球団の先輩から教えてもらった。だけど、かのえちゃんはフリーだからその手は使えない。もう直接かのえちゃんのいる事務所に連絡してやろうかな。

「でもあの糸ヶ丘さんが女子アナって、意外だよな」
「どういう意味さカルロ」
「チヤホヤされるの苦手そうなイメージ」
「……ま、それは俺も思ったけど」

カルロの言う事はよく分かる。女子アナって最近じゃタレント志望とか、そういうイメージがあったから。かのえちゃん、裏方仕事大好き人間って思っていたのに。そうこう話していると、雅さんが口を挟んでくる。

「糸ヶ丘はロケやりたかったんだろ」

バクバクと唐揚げを頬張りながら、そんなことを言う。

「ロケ〜?どっちかっていうと報道番組とかやりたそうじゃない?」
「あー、分かる。お堅い番組出ていそう」
「報道はまだ経験が足りないから難しいらしい。とりあえず今は、色んな場所言って色んな話聞きたいから、局アナじゃなくてフリーを選んだってよ」
「雅さん、まるで本人から聞いたみたいな口ぶりだね」
「そりゃ本人から聞いたからな」
「……は?」

予想の話だろうに、知ったように喋る雅さん。同学年ってだけなのに、なんでこうも知ったかぶりできるんだ。そうつっこめば、予想しなかった返事がきた。

「言ってなかったか?」
「……はあ!? 全然知らないし!何それ!」
「この間、北海道来ていたんだよ。大した会話してねえけど」
「喋ったの!?かのえちゃんと!?連絡先は!?」
「鳴じゃねえんだから、聞くわけねえだろ」
「はーっ!雅さん使えない!役立たず!……ま、待ってごめん痛たたたた!」

せっかくかのえちゃんと仕事したってのに、何のアクションもなく終わった雅さん。信じられなくて罵っていたら、箸を置いて右手で俺を頭を掴んできた。痛い!割とマジで痛い!

「うぁー……敵チームの頭ガン掴みすることある!?」
「今あったな」
「そうだね!信じられないよね!」

ようやく離してもらえた頭をかかえながら、俺は雅さんに文句を言った。ったく、相変わらずゴリラなんだから。

「……かのえちゃん、どんな感じだった?」
「ああ?普通に仕事していたが」
「そりゃ仕事なんだからそうに決まってんじゃん、もっとこうさ、」
「見た目でいえば、色はすげえ白くなってたな」
「っ!!」
「……なんだその顔は」

まさか雅さんがそんなこと指摘するなんて思っていなかった。そりゃあ俺だってかのえさんがミスコン取った時の動画で同じこと思ったけど、でも、実際にみた雅さんが一番にあげるのがそれって。なんか、なんか悔しい。

「雅さんサイテー!スケベ!」
「は?何がお気に召さねえんだよこのプリンスは」
「雅さん、鳴は糸ヶ丘アナと仕事したこと自体が気にくわないんだと」
「どうしようもねえ事に嫉妬すんな」
「嫉妬なんかしてないし!俺もいつかかのえちゃんから取材受けるし!」
「おーおー、来年楽しみにしておけ」
「……来年?」

来年、何があるっていうんだ。さり気なく俺よりもかのえちゃんのこと詳しいってアピールしてくる雅さんほんとムカつく。


「そっちの地方で、週1で仕事持つんだってよ」
「何それ初耳!」
「俺に言うくらいだから、そのうち情報出るだろ」
「え、うそ本当に?」
「ほぼナレーションっつってたから、プロの取材は難しいかもしれねえが」
「それでもじゅーぶん!」

充分、つながりは持てる。俺のチームから一番近い局は、確かスポーツキャスターにひとり、合コン好きな女子アナがいた。俺に連絡先を聞いてこなかったから、多分プロ野球選手は興味ないんだろうけど。でも、充分ツテはできる。


「絶対に、このキャンスは逃さないんだから」


そこから一年後、俺はようやく、かのえちゃん――もとい、かのえさんとの再会を果たすのである。

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