小説 | ナノ


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「成宮って、週刊誌にスッパ抜かれないよな」
「そりゃお前らと違って遊んでいないからね」

プロ2年目、特に活躍もできずシーズンが終わる。ま、来年からバンバン活躍してやるんですけど。

そう思っているとはいえ、やっぱり悔しさっていうのはあるわけで。同じように活躍の無かったカルロや他のプロ同期生と集まって自主トレをしていた。各々目的を果たして練習を終え、ロッカーで着替えをしていれば、終わりがけにそんなことを言われる。

「つっても、成宮ならワンナイトはあるだろ」
「ねーよ」
「女子アナとかじゃなくても」
「なんもねーっての」
「……マジで?」

本気で驚いた顔をされて、ちょっとイラッときた。俺のイメージ、どうなってんだよ。しかも、結局俺の返事が信じられなくてカルロに聞いているし。

「嘘だろ……神谷なら本当のこと知っているか?」
「鳴はマジで遊んでねえよ、昔から女も作らなかったし」
「都のプリンスだろ!?とっかえひっかえできるじゃん!」
「とっかえひっかえしてこなかったから、ここまでの投手になってんの!」

遊んでばっかりでこんなところまで来れるか。荒げてそういうも、他のやつらは脳内お花畑って感じで、いまだに怪しんだ目で見てくる。


「この間だって胸でかいアナウンサーに取材してもらってただろ」
「興味ない」
「じゃあアイドルクループは?」
「興味ない」
「成宮は女に興味ねーの!?」
「変な言い方やめてくれない?」

別に興味ないわけじゃない。でもプロ野球選手になって、変なヤツと関わって妙な噂立てられるなんてまっぴらごめんだ。

「神谷は成宮のタイプがどんなのか知らねえ?」
「タイプっつーか……なあ?」
「もしかして、彼女いるのか!?」
「だからいないって言っているよね?」

俺が唯一、本気で興味持ったのはたった一人だけだ。その人とも、もう1年以上会っていない。結局連絡先も交換できなかったし、気軽に会いに行ける関係性でもなくなった。

着替えのシャツに頭を通しながら、彼女の顔を思い出す。

(……縁がなかったのかなあ)

学校が違っても、なんとかなると思っていた。だけど思った以上に現実は厳しくて、付き合うどころか会話すらできない状況に陥ってしまっている。昔みたいに無茶な行動したら騒がれてしまうし、ここらが潮時なのかもしれない。

「そうだ成宮、なら女子アナ候補は?」
「なんだよ候補って、興味ないって言ってんじゃん」
「じゃあツテあったら紹介してくれよー……すっげータイプの子がいてさ」
「女子アナに?」
「女子アナ候補、な。明大のミスコンで優勝した子なんだけどさ」

俺のタイプの話だったのに、逆に紹介する流れになった。そもそもどこの誰かもしらないんだから、紹介も何もない。そう思ったが、ソイツのケータイを覗き見たら、懐かしい顔がみえた。

「あ」
「やっぱ成宮知ってんの!?青道のマネしてた人だってさ」
「……知っているけど」
「顔もスタイルも最高だよな!あとコメントもすっげーかっこよくてさ!」

見せられた動画に映っていたのは、かのえさん。色も白くて、化粧もして、髪もくるんくるんにしてもらっていた。


「(めっちゃ可愛い……)」


他のミスコン候補の人たちはみんな別の色を着ているから、多分各自に担当カラーが当てられているのかな。かのえさんは黄色のドレスを着ていた。黄色、全然イメージになかった。めっちゃいい。

『優勝した糸ヶ丘さん、コメントをどうぞ』

マイクを渡されて、少し間を置いた後にすぐ口を開く。動画でも分かるくらいに、周りからの歓声がすごい。うるさいな、かのえさんのコメント聞こえないじゃん。つっても、喋っている内容は普通によくある感謝の言葉だった。だけど。

『――そして、私を応援してくださっている人が、他の人からバカにされないように、立派な人間になりたいと思います』

締めくくりの言葉としては、随分と強い発言だった。

だけど、それを言うのが、やっぱりかのえさんだ。

「っはー、いいなあ糸ヶ丘さん。成宮ぁ、紹介してくれよ」
「……無理」
「えーいいじゃん」
「駄目」
「なんでだよ、成宮は女遊びしないんだろ?」

なら譲ってくれ。そう言ってくる同期にケータイを返しながら、俺もはっきりと告げた。


「この人は、俺のだから」


やっぱり俺は、かのえちゃんのことが好きみたいだ。


「……え、なに、結局付き合ってんの?」
「付き合ってないけど、かのえちゃんは俺のだから」
「あー狙っているわけね。まあ動画でも可愛かったもんな〜」
「かのえちゃんはずっと可愛いから!」

もう忘れたと思っていた感情に、自分でも驚いた。だけどやっぱり、俺はかのえちゃんのことが好きっぽい。久しぶりに騒いでいる俺にカルロが笑いだす。

「ハハッ、鳴がそうやって騒ぐの懐かしいな」
「えっ神谷なんか知ってんの?」
「えー時は遡ること、鳴がシニアチームに入る前」
「成宮そんな前から片思いしてんの!?」
「うっさいな!憐れんだ目で見ないでくれる!?」

同世代とはいえ、今までさほど関わりの無かった連中から突然俺の恋愛を暴露されそうになる。

「ちょっとカルロ!まじで黙って!」
「いいぞ神谷、全部吐け」
「だーもうっ!抱き着くな!カルロちょっとねえ!」
「お兄さんの試合を一人で観ていた糸ヶ丘かのえさんに……」
「だーーー!!!やめろ!!!」

結局、羽交い締めにされた俺は、カルロからすべてバレてしまった。こいつに喋るんじゃなかった。恥ずかしさでうずくまりながら文句を言っていれば、他の連中がみんな慰めてくれる。

「いいじゃねーか、片思い」
「こっちの先輩たちが糸ヶ丘さんを狙おうとしたら止めるから、な?」
「……絶対に許さない」
「あーはいはい、じゃあ明大の去年のミスキャン紹介してやるって!」
「去年の紹介されても……」

俺が会いたいのはかのえちゃんだ。去年の女とかどうでもいい。


「たしか明大って、歴代ミスキャン集まって学祭でイベントするだろ?」
「……なるほど?」

つまり、去年のミスキャンパスは、かのえさんと一緒にイベントをするはずだ。そう言われて、すこし気を引かれる。でも女伝いでかのえちゃんと出会うのは気が引ける。

「んー……でも自力で何とかする。できなかったら頼むかも」
「任せとけ!成宮の片思い、球界全体で見守ってやるから!」
「それはしなくていい」

そんなことを言いつつ、頼ることなんてないと思っていた。

だけど結局、なんでか分からないけどかのえちゃんのガードがめちゃくちゃ固くなっていて、どんなツテを使ってもかのえちゃんと繋がることができなかった。

結果この数カ月後、俺は去年の明大ミスキャンに声をかけるハメになってしまったのだ。

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