小説 | ナノ


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ピンポンピンポンピンポーン


「っかのえさん!!!これ!!!」
「ようやく見たの」

成宮が見せてきたのは、彼のケータイ画面。


「かのえさんから!メッセージ来てる!」


表示されているのは、昨日私が送ったメッセージ。私が送ったんだから、そりゃあ私は知っている。平然と返事をしてやった。

「な、なん、なんでっ!?」
「勘違いしている気配がしたから、暴走する前に教えてあげようかと」
「っごめん見てなかった!」
「でしょうね」

私からの連絡は、まったく意味をなさなかった。成宮はメッセージに気付かず、大御所アナウンサーであるトヨさんの楽屋に突撃してきてしまったのだから。

「……わー……かのえさんの連絡先だ……」
「悪用しないでよ」
「しない!絶対誰にも教えない!」
「無意味なメッセージとか送って来たり、」

――ピロリン

「あ、」
「……」

私が注意を言い切る前に、私のケータイが鳴った。案の定、表示された名前は「なるみやめい」だ。

「”部屋上がってもいいですか?”……目の前で送る必要ある?」
「あるよ!だって返事してなかったし!」

直接言えばいいのに、こういうしょうもないことするのは少しだけ可愛いなと思ってしまった。少しだけね。そして絆された私は、昨日財布を出してもらったお礼もあるので、【どうぞ】とメッセージを送るのである。




「――そもそも金輪際連絡取ることないのに」
「あるよ! そうじゃないとまたSNSで連絡を、」
「やめなさい」

麦茶がないので代わりにコーヒーを出せば、仕方がないと言いながらも飲み始めた。私は紅茶を淹れるためにキッチンに立っているので、成宮はいつものソファじゃなくてダイニングテーブルにいる。

「これで会えない時も連絡できるね」
「しなくていい」
「でも喋りたいことあるじゃん?」
「会った時にまとめて喋って」
「そ、それはつまり……?」
「会いたいわけじゃないから」

先手打って否定すれば、成宮は「ちぇ、」とこぼした。

「顔が見えないと喋りにくいでしょう」
「中継とかよくしてるのに?」
「……あんまり得意じゃないのよね」

正直いうと、直接顔の見えないやりとりは得意ではない。アナウンサーとしてどうかとも思うが、やはり相手が見えない状況でやり取りをするのは難しい。

「相手の表情と息継ぎ、それ見ないと相づち打つタイミング難しくて」
「そんなこと考えたことないや」
「成宮は自分のペースでしか喋らないものね」
「へへっ」
「褒めてないからね?」

わざとらしく頭を掻く成宮に否定を入れて、紅茶をティーポットごと持って私も彼の正面に座った。

「あれ、でも一也とは電話ばっかりしてなかったっけ」
「御幸って文字打つの遅いから」

彼から恋人の振りを提案されてから、定期的に連絡を取るようにしていた。最初こそ「今日は何をした」「どこへ行った」とメールで連絡を入れていたのだが、いかんせん御幸の返事が悪い。そして遅い。だから直接電話するようになったのだ。

「一也と今も連絡取っているわけ?」
「そういえばもう全然ね、前に電話きたけど」
「何の?」
「いつもの調子で、最近どうとか、好きな人はできたのかとか」
「へー」
「あ、それと成宮のことも聞かれたよ、なんか片言だったけど」
「へ、へーーー」

なんだか成宮が挙動不審になる。何か知っているかと問いただすが、「何もしらない」と言われてしまった。絶対知っているな。だけどもう済んだことだし、特に悪い隠し事ではないだろう。成宮は分かりやすいので助かる。

「……成宮って、すぐ表情に出るよね」
「えっピッチャーとして最低じゃない?」
「マウンドでは知らないけど……喜怒哀楽分かりやすくて助かるよ」
「? それは喜んでいいの?」
「ま、御幸と電話している時より楽ではあるかな」

首を傾ける成宮。私自身も自分が何が言いたいのか分からなくなってきた。

「一也のこと、嫌いなの?」
「それは語弊がある」
「じゃあ緊張する?」
「んー、緊張まではいかないけど、」

近しい感情かもしれない。御幸と喋る時は、少し気が張る。

「別に今更気使う相手でもないじゃん」
「そうなんだけど、御幸って何考えているのか分かりにくくて」
「まー表情分かりにくいもんなー」
「……バッターボックスでの話じゃないわよ?」
「じゃあ分かりやすいじゃん」
「えーそうかな」

私にとっては分かりにくい男でも、成宮にとったら、プライベートでの御幸は分かりやすい男らしい。男同士だからなのだろうか。

「つっても、一也って嘘つかないんじゃない?」
「うーん、そうだと良いなあ」
「なんかひっかかることでもあった?」
「……成宮に相談することじゃないんだろうけど、」

正直、ずっと違和感があった。
私は大学時代の一件から、「結婚しない」と明言していた。今は解決したものの、仕事が楽しくて仕方がないから、結局その気持ちは変わらない。

だけど、御幸はどうなんだ。


「もしかして御幸、昔から好きな人いるんじゃないのかなーって」


私を隠れみのにしているのが申し訳なくて、言えないのかもしれない。そう思ったらなんだか少し寂しく感じた。

成宮は私の言葉を受けて、少し停止した。片手に持っていたコーヒーカップを置いて、小さくため息をつく。

「……一也が誰にも相談していないなら、多分俺が一番よく知っているよ」
「相談受けたことあるの?」
「いや一度も」
「じゃあ知らないんじゃないの」
「でも一番分かっているのは俺だと思う、ずっと見てきたし」
「御幸のこと?」
「うーん……」

腕を組んで天井を見上げる。少し考えて、またこちらを見た。


「俺が答えちゃ駄目な問題だと思う」


まっすぐこちらをみて、ハッキリとそう言う成宮。

「……本人が隠していることだもんね、分かった」
「つーか俺が言いたくないっていうのもあるんだけど」
「?」
「ま! 一也が言いたくなったら言うでしょ!」

この話は終わり。そう言って立ち上がり、コーヒーカップを流し台に運ぶ。

「あ、置いといていいよ」
「ううん洗う!ポイント稼いでおかなきゃ!」
「何のポイントよ」
「かのえさんからの好感度!」
「……プラスになると良いわね」

からかってそう言ってやれば、成宮はまたギャーギャー騒ぐ。正直に言いうと、彼に対する好感度なんて、とっくの昔にプラスになっていた。

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