小説 | ナノ


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レギュラー番組もさほど変わりなく、地方1年目の去年とは違い、春のセンバツ後は随分穏やかな春を過ごさせてもらっていた。今日も無事収録が終わり、部屋で新聞を読みつつ寛いでいる。

そんな折に、私のケータイが鳴った。


「――御幸?どうしたの突然」
『えーっと、なんとなく?』
「なんか音大きいわね……ケータイスピーカーにしてる?」
『ちょっと今着替え中なんです』
「ならあとでかけてきたらいいのに。何かあったの?」

特に理由もなく電話してくるなんて、御幸らしくもない。何かある気はするのだけれど、御幸相手に上手く本心を聞き出すというのは、きっと私にはできないだろう。

『俺じゃなくて、かのえ先輩に何かないかなーって』
「私? 元気に全国飛び回っているところよ」
『甲子園に向けて?』
「そう、夏に向けて取材旅」

春のセンバツが終わり、高校野球の特番放送も一旦終わった。7月からまた夏へ向けた放送が始まるので、今は取材期間。高校生のスケジュールに合わせて土日を使って飛び回っている。

『じゃあ、今も仕事一筋って感じですか』
「そうね、でも去年よりは余裕あるかな」
『プライベートに時間を使うことも?』
「何それ、私に対する取材?」
『そんなとこ』

恋人の振りをしていた時は、お互いのプライベートも定期的に確認していた。しかし御幸が現在組むベテランエースが私を狙い始めたこと、そして成宮の生放送でようやく「御幸と糸ヶ丘アナは付き合っていないんだな」と周囲が気付いてしまったことから、恋人の振りをするためにいちいち連絡を取り合ったりしなくなった。

もう潮時だとお互いフリーであることを堂々と言うようにしていたので、御幸の生活も知らないし、私の生活もいちいち伝えていない。

「確かに仕事以外でいい話はあったかも」
『どんな話?』
「ふふっまた今度青道で集まったら言うね」


実は例の大学時代の男が、今度結婚するらしい。

相手は彼と同局の女子アナウンサー。どうやら結婚式の司会を大先輩のアナウンサーさんに頼むというので、ダメもとで「打ち合わせを見学したい」と言ってみた。すると、まさかのOK。

(結婚式の司会なんて、勉強できる機会ないもんなあ)

大っぴらにできる話ではないが、年末の集まりの時なら結婚式も終わっているので喋っても問題ない。同席していた結城には報告する予定だったし、その時に色々説明すればいいや。それに納得してくれたのか、御幸はまた話題をかえる。

『へーーー、じゃあ鳴とはどうなってんの?』
「なんで成宮?」
『何となく』
「御幸ってマンションのこと聞いたのよね?」
『すっげー自慢されましたよ』

成宮が私を騙してネックレスをプレゼントした一件の時に、御幸に相談すべく成宮は話してしまったそうだ。割と全部。

「……そういえば、最近会っていないわね」

指摘されて気付いたが、最近チャイムが鳴らない。最後に会ったのは電球を変えてもらった時か。シーズンも始まったし、こんなものかな。

「向こうも忙しいんじゃない?」
『かのえ先輩はさみしいなーとかないんですか?』
「いや別に」
『めいのことしんぱいだーってならないんですか?』
「……さっきから片言なのはどうして?」
『気のせいですって』

なんだか御幸の口調が怪しい。電話越しだと、本当に彼の考えていることが分からない。今も質問の意図が掴めずにいる。とはいえ、本心が分かろうとも分からなかろうとも、私は正直に答えるだけだ。

「だって私と成宮、別に付き合っているわけでもないし」

至極当然のことを言う。そうすると御幸は笑って、ぼすぼすと何が当たるような音が聞こえた。彼は一体何をしているのか。

結局この日の電話は、ほとんど私が質問されて終わってしまった。


***


「痛ぇな、殴るなよ」
「だって……だってぇ……っ!!」
「お前が聞けって言ったんだろ?」

一也の言う事は間違いない。俺が言った。途中から聞いてほしいことも急いでメモに書いて渡して、俺が知りたかったことを一也に聞いてもらった。だけどまさか、あんなに素っ気ない答えだなんて思ってもみなかった。

「つーか鳴、直接その場で聞けばよかっただろ」
「何を!?このゼクシーは何なのって!?」
「……無理だな」

そういって一也はケータイを置いて座布団に座る。俺は一也の部屋に寝転がった。

俺は今、一也の部屋まで来ていた。あんまり敵チームと仲良くしているとコーチからぶーぶー言われたりするけど、緊急事態だから仕方ない。

だって、かのえさんの寝室に結婚情報誌があったから。

「でもまさかかのえさんに彼氏かー……信じられねえ」
「俺だって信じたくないよ!」
「つってもはっきり言ったわけじゃないし」
「ゼクシー買ったのに結婚相手いないなんてある!?」
「まあそれは、仕事の都合とか?」
「ゼクシー買わなきゃいけない女子アナの仕事って何なんだよ……!」

カーペットすらないフローリングでうつ伏せになりながら、俺はわめき続けた。嘘だ嘘だ、信じたくない。でも、事実ゼクシーはかのえさんの部屋に置いてあって、かのえさんはプライベートも充実しているって言っていた。

「つーか相手誰なんだろうな」
「……哲さん?」
「今彼女いないって、純さんが言っていた」
「じゃあ……大学のあいつ!?」
「なんか知ってんのか?」

かのえさんを落とせるかゲームをしていた例の男。仲直りしたって言っていたけど、まさか、あいつと……?
考えたくはなかったが、最近突然会ったやつなんて、そいつくらいしか思いつかない。そのことを一也にいえば、一也も渋い顔をした。


「流石にそれは……本当なら考え直してほしいな」
「でしょ!?」
「まあ事実確認してからだな、俺からも青道メンバーに探り入れてみる」
「じゃあ俺は……かのえさんに聞いてみる」
「おう、頑張ってこい」

やっぱり、本人に聞くのが一番だ。もし頷かれても大丈夫なように、心の準備だけしっかりして、俺はタイミングをうかがった。

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