小説 | ナノ


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春、それは出会いの季節である。


「成宮くん、成宮くん」
「……何その呼び方」

成宮から”お高いワインをもらったからセンバツの慰安会も兼ねて飲もう”というお誘いを受け、私は二つ返事でOKした。なぜならば、私も話したいことがあったから。

「その、ね? 無理かなーって思いながら聞くんだけど」
「……言うだけ言ってみて」

ふたりでワインを1本空にして、成宮に至ってはビールまで数本空けている。見た目は変わらないが、多少は酔っていると思う。判断が鈍くなっている可能性を信じて、頼み事を告げた。

「今度知り合いと食事するんだけど、成宮も来てくれないかなーって」
「絶対イヤ」
「そ、即答……」

断られる可能性は分かっちゃいたけど、詳細を聞く前にバッサリいかれるだなんて。ちょっと口を尖らせ拗ねた態度を取るが、成宮も成宮でプイと顔をそむける。

「知り合いとごはん〜なんて絶対めんどうなやつじゃん」
「確かに難しい関係の人だけど……」
「でしょ? 俺に会おうとするやつなんてパス!」
「いや、会おうとしているわけじゃなくて、」
「ん?」
「逆に会わせようとしているといいますか……」

そう、別に”私の知り合い”が会おうとしているわけじゃなく、私がその人と会うのに成宮がいてほしいと思っただけだ。

(流石に二人きりじゃ会いたくない人なんだよなあ……)

その相手というのが、二人で会うのは遠慮したい相手だった。誰かいてほしいのだが、相手も私も今住んでいる場所が地方なので、どこで会うにしても一緒にいてくれる人がいなかった。だから成宮に無理を言ってみたのだが。


「……かのえさん相手でも、こればっかりは頷けないよ」
「そっか、ごめんね」
「いーよ。つーかこの辺の人?」
「ううん、地方。ちょうど成宮の遠征と被るから頼めないかなーって」
「遠征中とか余計面倒じゃん!無理!」
「だよねえ……大人しく諦める」
「かのえさんと二人きりなら、どこへでも行くけど?」
「そういえばセンバツの決勝のこと聞きたいんだけどさ、」
「無視!?」

成宮が渋い顔をしているのがよく分かったので、話題を変える。野球の話なら楽しい。知り合いと会う件は、自室に戻ってから改めて考えた。



とはいっても。

(――大学時代に私で賭けしていた男と、テレビ局で再会しちゃうなんてね)


そう、『誰が糸ヶ丘かのえを落とせるか』という賭けをしていた同級生と、地方のテレビ局で再会してしまった。他のスタッフもいたのでその時はさらりと終わったが、改めてちゃんと話がしたいと連絡先を渡されたのは3日前のこと。

こちらの都合に合わせると言ってくれたが、私が仕事のタイミングで会う方が手っ取り早い。そう思ったが、同席者を考えていなかった。

(成宮が無理なら、いつもで悪いけど結城かな)

毎回頼ってしまうのは申し訳ないと思いつつ、私は高校時代の信頼できるキャプテンに連絡を入れた。


***


『衝撃!鉄壁の糸ヶ丘アナウンサー、男と密会! なーんてな』

……なんて文章が載っていたのは、週刊誌ではなく、カルロから届いたメッセージ。


「なんだよカルロ、またデマ送ってきたのかよ」

カルロの本拠地で連戦開始1日目、ホテルで休んでいれば今日ノーヒットだったカルロから連絡が入る。
打てなかった恨みかと思いつつ、寝転がりながら画像を開けたら――

「は?」

そこに写っていたのは、本当にかのえさんだった。周りの写真的に、普通に街中っぽい。隣にいるのは、青道の哲さんだ。それと、哲さんを挟んでもう一人。これは誰か知らない。

ともかく、男2人とかのえさんが街中を歩いていた。そういえば、かのえさんが前に「会わせたい人がいる」と言ってきた時、指定されたのは今日だった気がする。

俺は起き上がり、急いで電話をかけた。発信先はもちろん。

「……カルロこれどこ!?」
『お疲れさん、明日初球何投げる?』
「言うわけねーだろバーカ!つーかどこかって聞いてんの!」
『さっきのか? あれは○○駅の方だけど、』
「〇〇駅!?どこ!?」
『だけど俺が見かけたのは店出たところだったから、もういないと思うぞ』
「はー!?マジ使えない!!入店を目撃してよ何してたわけ!?」
『試合だよ』

そんなこと知っているっての! 聞いたのは俺だけど、わざわざ言われるとムカついてくる。カルロがムカつくっていうか、かのえさんっていうか、会おうとした誰かっていうか。


とりあえず、これ以上何の情報もなさそうなカルロとの通話を切って、俺はベッドに寝転がった。確かめようにも、かのえさんの連絡先を知らない。

(……会わせたい人って、哲さんとは別だよな)

青道の野球部とは未だに仲がいいって聞く。何かあるごとに集まっているらしいし。俺なんて高校時代のメンバーなんて結婚式くらいでしか会わないってのに。

そこまで考えて、俺はハッとした。

「もしかして、彼氏の紹介……なんてことはないよね」

多分、いや絶対ないと思いつつも、確認する手段のない俺は、うんうん唸りながらベッドでうずくまることしかできなかった。

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