小説 | ナノ


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キャンプ半ばの休息日、俺はベッドで寝転がりながら、カルロから届いたメールを眺めていた。

かのえさんと約束した通り、盗撮したカルロ本人には写真を消すように言った。ケータイも確認した。だけど、俺に届いたメールは消していない。なんなら画像は保存した。

「……やっぱり可愛いなあ」

送ってもらった写真は、海ぶどうを食べようとしているかのえさん。まだ口に入れる前なのに、幸せそうな顔をしている。かのえさんはいつでも可愛いけど、好きな物食べている時が油断していて、幸せそうで、一番可愛い。

「俺もコソコソしなきゃ堂々と写真撮れるのに……」

マンションで一緒にごはんする事もあるから、かのえさんが食べている姿は何度も見ている。だけど嫌がられるのはヤだから、部屋にあげてもらう時は今もケータイは持たないようにしていた。

「堂々と外食できたらなー……あ、そうだ」

いいこと思いついた。上半身を起こし、ケータイをぽちぽち操作する。随分ログインしていなかったけど、自動入力できてよかった。

(球団側からも「たまには投稿しろ」って言われていたし、いいよね)

俺はちょっと楽しくなりながら、短い文章を打って、久しぶりにSNSへ投稿した。



***


「糸ヶ丘先輩!」
「……沢村選手?」

キャンプ取材最終日、懐かしき後輩のチームのコメントをもらい、ようやく仕事が終わった。練習場の隅でカメラ班のチェックに混ざっていれば、先ほどやり取りをしていた沢村が声をかけてくる。

「沢村のことなんて呼び捨てで結構です!」
「いやいや、流石に選手相手にそんなこと、」
「それよりも!!」
「う、うん」

相変わらず話がよく変わる子だ。自分のペースで喋る彼に何とか相づちを挟んで会話する。

「ケータイ見ましたか!」
「ケータイ?朝チェックしてから開いてないけど」
「了解です!失礼しました!」

それだけ聞いて、沢村は練習場のベンチへ戻っていった。どうやら私たちのやり取りを他の投手陣が遠巻きに見ていた様子だ。「ケータイ見てないそうです!」という元気な声が聞こえたかと思ったら、沢村はまた何か言われている。そして、またこちらへやってきた。

「今すぐSNSを見てほしいそうです!」
「私用のケータイはロケバスの中だからすぐには無理ね」
「分かりました!」

また沢村はベンチへ行き、頭を叩かれ、そしてまた私のところへ戻ってくる。

「糸ヶ丘先輩!」
「……沢村、私が直接喋ろうか」
「あの人たち糸ヶ丘先輩のファンなんで緊張して無理だそうです!」
「ああ、そう」
「それよりも! 他の人に絡まれる前にケータイ見た方がいいって!」
「あーはいはい、あとで見るね」

面倒になってきた私が沢村くんをあしらっていると、一緒に映像チェックをしていたカメラマンが声をかけてきた。

「……糸ヶ丘アナウンサー」
「どしたの? 映像ダメだった?」

てっきり映像カメラを見ているのかと思っていたのに、彼の手にあるのはスマートフォン。名前を呼ばれ振り向いたが、一向に続きを喋ろうとしない。会社からの連絡だろうか、見るよと声をかけケータイを覗かせてもらうと――


【@XXXXX 糸ヶ丘さん、お疲れ様です。一緒に食事でも行きませんか】


彼が見ていたのは、とあるSNSの投稿。投稿したアカウントの名前は「成宮鳴・公式アカウント」となっている。そう、成宮の球団が管理しているアカウントだ。

「……何だこれ」
「これ見てほしかったらしいです!」
「そう言えばいいよね」
「それもそうですね!」

呆れて沢村のチームメイトの方を見ると、私がケータイを見たと気付いて沸いている。学生か。いや、ついこの間まで高校生だった子もいるけれど。

とはいえ、まさかこんなアプローチがくるとは思ってもみなかった。元々返信をあまりしないアカウントだから無視をしてもいいのだけれど。

「注目ワードにも糸ヶ丘先輩と白頭の名前あがっているらしいです!」
「……はい?」
「あ、本当ですよ糸ヶ丘アナウンサー」

再度ケータイを見せてくれるカメラマン。仕事中なのに申し訳ない。

「あやつに返事するんですか?」
「したくないけど……無視すると印象悪いかな」
「冷たいなとは思いますね!」
「沢村、言うようになったわね」

沢村からの助言も受けつつ、どうしようか考える。そもそも私は作った料理を投稿することばかりなので、あまりSNSに慣れていない。どうするのが正解なのだろうか。

「糸ヶ丘先輩、もう炎上しないよう気をつけてくださいよ!」
「うるさいわね、別に前だって私が書き込んだわけじゃ……、」
「? どうしました?」
「……沢村、あんたアカウントあったわよね」

私の質問に、沢村はキョトンとして首を傾げる。しかしすぐ元気な返事をくれた。

「ありますよ!糸ヶ丘先輩よりも使いこなしている自信があります!昨日も道で見かけた御幸一也を盗撮して載せたところでして、」
「ひとつ、書いてほしいことがあるんだけど」

あまりマナーとしてはよろしくない発言が飛び出してきたが、それを無視して私は頼み事をする。沢村はキョトンとしたが、すぐに笑顔で「お安い御用です!」と返事をしてくれた。

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