小説 | ナノ


▼ 20

ピンポーン


「その顔は、なかった感じ?」
「……予想通りでございます」

私の様子はあからさまだったようで、成宮の部屋を尋ねたらすぐに気付かれてしまった。立ち話も何だし、ということで、そのまま成宮の部屋に招かれる。

「近くの駐車場も、契約済のところばかりみたいで……」
「結構車乗っている人多いもんね」
「どうしてもほしくなったら、一番近くてココだって」

成宮はソファに、私はハンモックに乗りながら会話をする。お互い立ち上がる気がないので、やや前のめりになりながら、先ほど渡された地図を見せる。成宮の目は良かったので、降りずとも見えたようだ。

「……マンションの裏手通り?」
「うん」
「こっちの方って街灯少なくない?」
「だよね……正面の道沿いだと結構離れてこの辺りだって」

いくつか候補を教えてもらったのだが、どれも距離や立地が甲乙つけがたい。
成宮は少し考える仕草をして、口を開いた。

「提案があるんだけど」
「?」
「もしかのえさんが本当に車買うなら、俺の駐車場1台分譲ろうか?」
「えっ」
「一応2台分契約してあったんだよね」

それは初耳。というか、一人暮らしなのに2台分も契約できるんだ。

「それは2台目買う予定あったんじゃ」
「ううん、前のマンションの時は結構チームで集まったりしていたから」

なるほど、来客用にと余分に借りているわけか。しかし、それなら尚更契約したままの方がいいのではないか。

「ならむしろ、使う予定出てくるんじゃ」
「だってかのえさんの隣の部屋に、独身男なんて呼べるわけないじゃん!」
「私の部屋に押しかけてくるわけでもあるまいし」
「うっかりバッタリ出くわしたら困るの!俺が!」

正直、私も成宮の隣に住んでいるなんて知られたくないのでそこは助かる。成宮は言いふらすタイプかと思ったが、案外チームメイトにすら言っていない状況らしい。

「止める場所は柱あってちょっと駐車しにくいけどね」
「そうなの?」
「見に行っておく?」
「そうね、せっかくだし」

そう言われ、そのまま玄関まで向かおうとしたのだが、成宮に呼び止められた。

「かのえさんちょい待って」
「?」
「駐車場、他の階の人とも同じ場所なんだよ」
「うん」
「俺はいいけど、かのえさんは俺といるの見られても平気?」
「絶対イヤ」
「そこまで言う!?ま、ヤなら帽子でも被っておいて」

そういって成宮は奥からキャップと、ついでに上に羽織るジャージも渡してくれた。確かに、仕事でも私服でもこんな服装を着る機会はないので、これなら私だと気付かれないだろう。ありがたくお借りして、私は成宮と共に再度エレベーターで降りていった。


***


「無理です」
「あ、やっぱり柱あると運転不安?」
「柱じゃなくて」

地下駐車場まで降りていくと、ある程度は階ごとに分けられているようで、思ったよりも車は少なかった。成宮の契約している場所は、エレベーターを降りてすぐ隣。あとをついていくと、1つだけポツリと空いていたのですぐ分かった。しかし。

「こんな高級車の隣、絶っ対に無理……!」

空いた駐車エリアの隣――つまり、成宮の使っている場所には、車に詳しくない私でも一目で高いと分かる、海外の高級車が止まっていた。

「サイズ大きいから?かのえさんが隣使うなら丁寧に止めるよ」
「いや幅の問題とかじゃなくて!無理!怖い!」
「えー、かのえさん運転下手?」
「下手と言われたことはないけど、慣れてもいません」

仮に慣れていたとしても、こんな外車の隣に止める勇気など私にはない。むしろ自分の車しか傷つかないのなら、柱にぶつけてしまう方が全然マシだ。

「……ここに止めるくらいなら別の駐車場に止める」
「えーっ暗いから遠いとこはやめてよ!?」
「うーん……まず買うかどうかから考えなおすかな」

別にどうしても欲しかったわけではない。電車やバスもあるので、充分便利な地域だとは思うから。

「ま、不便なところ行きたくなったら俺の助手席があるからね」
「それはないかな」
「遠慮しなくていいよ?」
「本当にいいかな」

結局、私が車を購入することはなかった。しかし、いつかはほしいと調べ始めたら、成宮の車のことを知ってしまい、改めて隣には止められないと決意を固くしたことと、何だかんだで成宮の助手席に乗る機会ができてしまうのは、また別の話である。

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -