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「かのえさん、車買うの?」
「ん? ああ、チラシ?」
前回体調を崩した時に助けてもらったお礼、ということで今日は成宮リクエストのからあげを振る舞った。二人して大皿一杯のそれを食べ終わり、私はキッチンで皿洗い、成宮はソファでくつろいでいた時のこと。
「まだ悩んでいるところ」
「どれにするかを?」
「ううん、買うかどうかもまだ決めていない」
手洗いが終わり、食洗機に並べ終わったので布巾で水回りを拭いて、テレビの前にいく。写っているのは沢村の試合だ。
「かのえさんって運転できたんだね」
「これでも国際免許取ったりしたんだから」
「えっ海外で運転してきたの?左ハンドル?」
「まあね」
成宮はローテーブルの下にいれてあった自動車販売店のチラシたちを取り出して、パラパラを眺めている。
「せっかく東京離れているし、あると便利かなーって」
「まあ便利だよね〜話しかけられることもないし」
「私は成宮と違ってパパラッチ対策じゃないんだけど」
「違うって!ファンからの声かけがキリないから!」
なんだ、てっきり記者対策かと思ったのに。そう告げれば、そんなの車くらいじゃどうしようもないと言われた。
「車乗っていても、記者は降りたタイミングで突撃かましてくるし」
「流石、撮られ慣れているわね」
「慣れたくて慣れたわけじゃないんですけど!」
「そういえば、このマンションって張られたりしていないわよね」
最近の成宮に女性遊びがないからだろうか。考えてみると、私は割とこの辺りをふらふらしていることも多いが、それらしい人は見かけない。
「この周辺ってお偉いさん多いから、下手に張ったりできないんだってさ」
「そうなんだ」
「だから俺も球団から言われて越してきたんだし」
「あ、それで文句言っていたのね」
「前のところ、新築だったし気に入っていたんだよ」
私が引っ越し作業をしている時、つまり成宮が内覧でにていた時、狭いだの低いだの、私の部屋の隣でギャーギャー喚いていたのを思い出した。だから引っ越してきたのは成宮の意思ではないと分かっていたのだが、まさかパパラッチ対策で越してきていたとは。
「でも、かのえさんに会えたから万々歳なんだけどね〜!」
「成宮って車どうやって選んだの?」
「無視!?」
成宮がローテーブル上にあげた車のチラシを、私も眺める。とはいえ、どう選んでいいのかまったく分からない。唐突な質問だったけれど、成宮はしっかり答えてくれた。
「俺は完全に一目惚れだね」
「ふーん」
「……興味なさすぎじゃない?」
「あ、ごめん。選ぶ参考には難しいかなって」
「車の選び方なんてそれぞれだからなー」
確かに、家族構成や乗る頻度なんかによっても変わってくる。だからこそ、同じ土地に住んで、同じ一人身である成宮に聞いてみたのだが、結局参考にならなさそうだ。別に「これがいい!」って車もないから。
「雅さんは北海道だからそれ用に買ったらしいよ」
「北海道だと違うの?」
「雪降るとこは条件違うんだってさ」
「へえ」
そんな違いもあるんだ。もう少しちゃんと考えた方がいいかもしれない。うんうん悩みながらカタログを見比べる。
「ま、顔知られる仕事しているならある程度の車乗った方がいいと思うけど」
「なんで?」
「糸ヶ丘アナはあんな車乗るんだってーって噂になるのヤじゃない?」
「うーん、私は車の違い分からないからなんとも」
別に車なんてどれも同じじゃないのだろうか。成宮の指摘が分からず首を傾けていれば、例えも出してくれる。
「仮に俺がピンクの丸っこい乗っていたらビックリしない?」
「えーそう? 可愛いと思うけど」
「なら雅さんだったら?」
「……ちょっと笑っちゃうかも」
「そういうこと!」
どういうことか完璧には分からなかったけど、確かに原田がピンクの小さい車に乗っていたら色んな人に喋りたくなるかもしれない。そう考えると、無駄に大きい車を買っても家族が何だと言われる可能性がないこともないのか。
「じゃあさ、成宮から見て私に似合う車ってどんなだと思う?」
「俺の助手席」
「あんたに聞いた私が馬鹿だった」
「あーうそうそ!うそじゃないけど!かのえさんは、そうだなー」
小さくため息をつきながら、成宮がチラシをめくっていく様子を見つめる。うーん、やっぱり自分でもピンと来ないし、成宮もコレといって出てこない様子だ。そもそも、チラシだけでは見た目と値段くらいしか分からない。多分、もっと性能を見るべきなんだろう。
「あ、」
「どうしたの成宮、良さそうなの見つかった?」
「思ったんだけど、駐車場ってマンションの使う?」
ふと、そんな質問をぶつけてくる。どうせ買うなら、当然そのつもりだ。
「そりゃあ、駐車場付きなんだからそうする予定よ」
「あー……もしかしたら、空きないかも」
「えっ!?」
このマンションの駐車場は地下にある。どうやら1室1台分、というわけではないらしい。私が越してきた時は、「車乗りません、持ってません」で終わったから、説明がなかったんだろう。
「もし本当に買うかもしれないんだったら、確認した方がいいんじゃない?」
「そうかも……ちょっとロビー降りて聞いてくる」
電話でもよかったのだが、もし空きがなかったら地図を見ながら近隣の駐車場も確認したい。頼むから残っていてくれ。そう願いながら、私がエレベーターで1階へ降りた。
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