小説 | ナノ


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「おおー、パフェだ!」
「パフェです」
「初めての共同作業だね!」
「その言い方はやめて」

コトンとカクテルグラスをローテーブルに置けば、大きなリアクションを取ってくれる。私も自分のパフェを取りに行くが、運ぶ前にケータイを取り出してキッチンで写真を撮ることにした。

「かのえさーん、何やってんの」
「写真撮っているの」
「俺も写った方がいい?」
「遠慮する」

仮に記念撮影だとしても、成宮が写った写真なんていらない。それに、記念撮影ではないので、余計にいらない。

「分かった、SNS載せる用でしょ」
「そのつもりだったんだけど……どうしようかな」
「載せれば?いつも載せてるじゃん」

確かに、自分で作ったものはいつもアップしている。人からもらった物も載せている。が、誰かと食事に行った時は載せていない。私なりの線引きだ。

「人と食事したのは載せないようにしているの」
「なんで?」
「誰と行ったのか知られたくないから」
「うわ、ほんと鉄壁」
「成宮も見習いなさい」
「俺もかのえさん関係以外は防御率すげーからね!」

それは野球の成績を言っているのか、女関係を言っているのか。どちらにしろ、後者の方は既に手遅れだ。女関係での彼の甘さは充分知られ渡っている。そして、そんな成宮と同じパフェを食べているなんて、誰にも知られたくない。

「成宮と食べたってバレたら最悪だし、お蔵入りかなあ」
「最悪って何!?」
「あんたみたいな遊び人イメージのある相手、一番話題にされたくないわよ」
「遊び人じゃないし!一途だし!」
「でも世間はそう見ていないんだから」

成宮がずっと会おうとしてくれたのが事実だとしても、周囲はそんなこと知らない。せっかくノースキャンダルでやってきたのに、そんな男とすっぱ抜かれるなんて絶対イヤ。

「もーなんで世間様は好き勝手言ってくるんだろうねー」
「それは私も思うけど」
「でも俺はどうせSNS更新しないし、かのえさんあげていいよ」
「あ、そっか」

そういえば、成宮はアカウントだけはあるけど、本人はほとんど更新していないんだっけ。たまに写真を載せていることもあるらしいけど、球団側から更新を催促された時にようやく撮るらしい。その割にアカウントを見ているファンが山ほどいるのだから、やっぱり成宮って人気なんだな。何度も週刊誌に載っているけれど、何だかんだで女性ファンは多いらしい。

「つーかケータイ置いてきたから写真撮れないし」
「えっケータイは持っておきなさいよ」

そこまでしているなら、確かに安心だ。でも、逆にケータイを持ち歩かない成宮を心配してしまう。至急の連絡が入ったらどうするんだ。

「球団から急ぎの連絡あったらどうするの」
「その時はその時。どうせかのえさん何時間も居させてくれないじゃん?」
「それはそうだけど」
「どっちかっていうとパフェの方が至急〜!溶けちゃう!」
「あーはいはい、先に食べていいよ」
「かのえさんと一緒に食べる〜!」
「はいはい」

長いスプーンを指揮者よろしく振りながら、私が移動するのを待つ成宮。急いで写真を撮って、もう1本、細長いスプーンを探しながら再度注意をいれた。

「今度からはケータイくらい持ってきておきなさいよ」
「えっ今度があるの!?」
「……ごめん、一生ないわ」

流石に何かあった時にマズイので、連絡くらい取れるようにしておいてほしい。そう思ったが、別にこっちの部屋に来なければいいだけの話だ。うっかり口を滑らせてしまったが、すぐに訂正した。

「だって何時間も離れないから、仮眠で電話出られないのと変わんないし」
「……確かにそうね」
「それに、」
「それに?」

言われてみれば、確かに私の部屋に居るといっても、たかだか一時間くらいだ。寝てましたで済むくらいの時間かもしれない。こちらとしてもケータイを持っていないと言われた方が安心感がある。まさか成宮が盗撮してくるなんて思っちゃいないけど。

そんなことを考えながら自分のパフェを持ってソファに近づいていくと、成宮がまた言葉を紡ぐ。


「それに、せっかくかのえさんと2人きりなんだから邪魔されたくないし?」


ね。なんて言ってこちらを見てくる。私がまだ立っているせいで、自然と彼が見上げる形になってしまう。

「あ、照れてる?」
「てっ照れてない!」
「照れてんじゃん!かのえさんが!照れた!」
「照れてないし!」

ゴンと自分のパフェを置いて、フローリングに置いてあったクッションに座る。

「ソファ座れば?」
「あんたの、隣に、居たくない!」
「えー何を今更」

座れば、なんて我が物顔で言ってくるが、絶対こいつの隣には座りたくない。正座で黙々とパフェを食べ進めている間も、成宮は笑ってこちらに話しかけ続けた。

「パフェ美味しいね」
「高級なフルーツってたまらないわ」
「それに、俺が作った生クリームだし!」
「まあそこは……認めざるを得ないわね」

成宮が持ってきてくれたマンゴーと、成宮が作ってくれた生クリームでできたパフェは美味しかった。まあ高い果物と、高い生クリームだったからね。当然よね。うん。

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