小説 | ナノ


▼ 16

ピンポンピンポンピンポーン


「マンゴー届いた!」
「おぉー……」
「ってことで、お邪魔しまーす」

上蓋を取った状態の段ボールを抱え、成宮が私の部屋にやってきた。箱の中にあるのは、超高級マンゴー。

そう、この前つい口を滑らせて「マンゴー持ってきたら剥いてあげる」なんて言ってしまったから。本当ならば来年以降に成宮と仲良くなっていたら、という前提の話だったが、まさか数カ月後になるなんて。

とはいえ、美味しい食べ物を頂けるのはありがたい。今日は素直に成宮を部屋に招いた。



「成宮、これいくつ食べる?」
「3つとも食べちゃおうよ」
「分かった、そのまま食べる?」

キッチンに段ボールを置き、我が物顔でソファに腰かける成宮。前回来た時はソファ手前までしか来なかったのに、あっという間に図々しくなってしまった。いや、図々しいのは元々か。

「フルーツなんてそのまま食うしかないじゃん」
「んー……成宮って甘いの平気?」
「美味しいならへーき」
「美味しくできるかなー」

とりあえず、ひとつはそのまま。そう思って包丁を入れる。皮をはがして、サイコロ状に切っていく。ガラスの器に入れて、デザートフォークを添えてテレビを見る成宮の元へ持っていってあげた。

「切るの早っ」
「切るだけだし」
「かのえさんって手際いいよね」
「それはどうも」

コトンと置いたそれをみて、成宮はさっそくフォークに手を伸ばす。大きい彼の手には、デザートフォークはさらに小さく見える。長い指をつい目で追ってしまっていたら、成宮がこちらを向いた。見つめてしまっていることを茶化されるかと思ったが、特にそれは指摘せず、刺した果実をこちらに向ける。

「はい」
「え、なに」
「かのえさん食べた?」
「成宮のだから、あんたが先に食べなよ」
「かのえさんへのお土産だってば」

そう言いながら、フォークを下げる気配はない。受け取ろうと手をのばせば、彼の右手にぺしんと叩かれた。じぃっと睨んでみるが、成宮は怯まない。

「はい、あーん」

まあ、別にいいか。言われるがままに、口をあける。入った瞬間、マンゴーの甘みが口いっぱいに広がった。


「……っ最高に美味しい……!」
「ほんと?俺も食べよーっと」

そういって、サイコロ状になったマンゴーを惜しげもなくフォークにまとめて刺していく。なんと贅沢な食べ方だ。

そんな彼を置いて、私はまたキッチンに戻った。冷蔵庫を開けて、食材を確認する。うん、なんとかできそう。ちょうど一昨日、貴子が遊びにきた時色々作って食材が残っていた。賞味期限も、まあ、多分大丈夫でしょ。


「なーにやってんの」
「パフェ作ってんの」
「パフェ!」

この部屋のキッチンはセミオープン型になっているので、リビングから手元はみえない作りになっている。ソファに座ったままだと”何をしている”かまでは見えなかった成宮が、カウンターまでやってきて、こちらの手元を覗き見る。

「パフェのグラスだ!」
「カクテル用だけどね」
「アイス入れてアイス!バニラね!」
「そうね、生クリーム作るの面倒だから代わりにアイスを入れようか」
「生クリームなかったらパフェじゃないじゃん!」
「そこまで重要なの?」

貴子が来た時に使った生クリームは、確かに残っている。結局スープを作るためにしか使っていないので、パフェ2人分くらいは充分作れるだろう。しかし、問題がひとつある。

我が家に電動の泡立て器はない。

「作るのはいいんだけど、時間かかるよ」
「そうなの?別に待つからいいよ」
「んー……なら頑張ろうかな」

どうせ賞味期限も危ういし、ここで使ってしまおう。そう決意した私はボールと泡立て器を準備する。小さな紙パックに残っていた生クリームを流し込んで、よし。


ガチャガチャガチャガチャ……


「……ふー……」

考えてみれば、生クリームを手動で泡立てようとするなんて高校以来だ。あの頃はみんなで交代しながらだったけど、もっと頑張れた記憶がある。抱きかかえていた、大して泡立ってもいない状態の生クリームを置いて、ちょっと休む。顔をあげれば、成宮がいつの間にか近くにいた。

「全然液体じゃん」
「……これから固まっていくのよ」

カウンターに肘をついて、さらさらの生クリームをみる成宮。分かる。心配になる気持ちも分かる。だけどちゃんとやり遂げるので、途中経過はみないでほしい。そう念じていたら、成宮がカウンターから腕をのける。やっとソファに戻ってくれるかと思ったのに、なぜかカウンター内に回り込んできた。

「え、なに、」
「これどうすんの?」
「どうって、泡立てて食べるんだけど……」
「泡立てるのって普通にガチャガチャしたらいい?」
「う、うん」


ガチャガチャガチャガチャ……

頷けば、成宮くんはたぷたぷと液体の揺れるボールを持って、泡立て始めた。大きなぼボールも片手で持って、平然と泡立て器を振り続けている。

そして、あっという間に液体が形を持っていく。

「……こんなもん?」
「おお……!」
「生クリームの正解が分かんないんだけど、もういいの?」
「こんなもんです!」

あっという間にツノの立った生クリームを見て感動していれば、成宮が確認してくる。ボールを受け取って軽くかき混ぜてみた。うん、完璧な固さだ。


「すごいすごい!成宮すごいね!」
「え、今?」
「手動でこんなに早く生クリーム作れる人はじめてみた!」
「生クリーム作る人見る機会ってなさそうだけどね」

当たり前のことを指摘してくる成宮。それもそうだけど、でも確実に私が高校3年生時のマネージャーの誰よりも早かった。あの時は幸子の腕力をみんなで褒めていたけど、幸子なんて目じゃない腕力だ。

「でもすごいことはすごいよ!成宮すごい!」
「別に、こんなことで褒めてもらわなくていいんだけど」
「えーそんなこと言わないでよ。女の腕力じゃこうはいかないもの」
「確かにねーちゃんも機械で作ってた気する」
「お姉さんいたんだ」
「うん、まあこの程度なら普通だけどねー」

褒めなくていい、なんて言いながらリビングのソファへ戻っていく成宮。でも、ちらりと耳が赤くなっているのが分かってしまった。


(……なんだ、嬉しいんじゃないか)


思わずこっちも笑みをこぼしてしまう。

せっかく作ってもらった生クリームを無駄にできないので、早々にパフェ作りに取り掛かった。スポンジと、アイスと、生クリーム。マンゴーを強調させたいので、チョコレートは入れない。白とオレンジをバランス良く重ねていけば、もう完成だ。

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