小説 | ナノ


▼ 094

「あ、」
「どした」
「ちょ、ちょっとこれ!週刊誌!」

実家へ帰る途中、止まったパーキングエリアのコンビニで週刊誌が目に入ってしまった。

「……あー、これね」
「成宮くん知ってたの!?」
「かのえが家出した日のでしょ」
「……あの時、撮られていたんだ」
「内容まで知らないけど。買っておく?」
「それレジに持っていくの!?」
「かのえだって前回買ってたじゃん」

ホットのお茶と雑誌を持って、成宮くんがレジに向かう。帰省ラッシュで人が多いというのに、堂々としすぎているからか、あまり騒がれない。やはりあの黒いニット帽をかぶっていると分からないものなのだろうか。確かに私も彼を探す時に髪色で探している気がする。




「……『球界のキングと陸上界のクイーン、仲睦まじくお忍びデート』ね」
「あああああ……こんな醜態晒すだなんて……っ」
「あん?俺といちゃいちゃしているのが醜態だって?」
「だって!こんな酔っぱらっている姿……っ!」

成宮くんが運転をしている横で、雑誌を読み込む私。
本文に添えられた写真は、成宮くんに腰を抱かれ、白い車に乗り込もうとしている私の姿だ。上手い具合に駐車場の様子が隠れているものだから、コインパーキングだとは分からない。

「悪いこと書かれてないなら、それでいーじゃん」

買ってパラパラと読んだ成宮くんが口を挟んでくるが、結局これはイチャイチャなんかではなく、私の介抱をしてくれているだけなのである。どう考えても醜態だ。

「あーどうしよ、実家帰りたくない……」
「着いたら無理やり降ろすからね」
「この彼氏、容赦ない」

先に私の実家に寄って彼は母に挨拶だけして糸ヶ丘家を後にし、そのまま自分の実家に向かう。いつもこのルートだ。だから私は彼の家にまだ行ったことがない。

「ビビリの彼女を持つとね、思いきりが大事だって気付くんだよ」
「思いやりも大事だと思うんですよ」
「思いやりと思いきりはセット販売です〜」
「別売りして」
「ちょー高くなるよ」
「どのくらい?」
「んー、かのえからのキス10回くらい」
「……じゃあなくていいや」
「そこはイヤなの!?」

かのえよく分かんない!ぶー垂れる成宮くんを無視して、記事を読み進める。しかし、読んでみたら確かに内容は思いの外好意的だった。前回成宮くんが載った雑誌とは違う出版社だからだろうか、ここまで感じ方が違うとは。

「なんて書いてあった?」
「『成宮選手は長年交際を続けている陸上界のクイーンと料亭を後にし、騒ぎ立てられないようにと裏口から出て行った』って……なんだか普通のこと書いてある」
「カルロたちのことは?」
「あ、そういえば書いてない」
「……やっぱりねー」
「? あ、そういえば!」
「どした?」

確かあの日、成宮くんは何かと周囲を気にしていた。もしや、記者がいることに気付いていたのではなかろうか。

「シャッターチャンスがどうとか言っていなかったっけ?」
「……言っていたっけー?」
「成宮くん、撮られているの知っていたじゃ……?」
「さぁね、どうだろ」
「知っていたんじゃん!なんで!?どうして放置したの!?」
「記事最後まで読んでよねー」
「読んだよ最後まで!」
「ほんとに?一番最後だよ」

念押しで言われるが、ちゃんと読み切った。やけに文学チックな文章で、私たち二人が月に照らされて闇に飲まれていった、なんて書かれていた。それで終わりで、あとは担当記者の名前が……あれ。

「この人、」
「そ。あの時SNSに俺の告白載せてバカやった後輩」
「言い方」
「あの女、まさか未だにかのえのおっかけしているとはねー、しかも大手出版社勤めで」

成宮くんの告白をネットに投稿して、ひと悶着あったあの後輩の名前が書かれていた。まさか出版社に就職したなんて。あれ、でも私の取材にきたことは一度もないな。

「去年のキャンプで見かけてさ、名刺みたらスポーツ誌担当してるって」
「へー、私見かけたことない……」
「スポーツって大体いる記者決まっちゃっているじゃん、まだ陸上の担当できないんじゃない?」
「いや、もしかしたら成宮くんの魅力に気付いて……」
「あんなやつには好かれなくていいっての」
「(……まだ根に持っているんだ)」
「でも、偶然見かけたのがアイツで良かったよ」

記事内容が好意的であるかどうかは、賭けだったらしい。確かにスポーツ誌担当ならこの週刊誌とはジャンルが違う。情報提供だけして、別の人が湾曲した内容を書く可能性もあった。しかし、伝える情報を絞ったのか、何かしら手を打ったのか、ともかく、彼女の努力のおかげでこの記事が生まれたわけである。

(なんか、嬉しいかも)
(アイツも仕事だから好き勝手できないからね)
(……ほんと根に持つなあ)

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