小説 | ナノ


▼ 093

「かのえ〜おひる何〜」
「そうだなー……あ!」
「何かあった?」
「玉子焼き!」


あれから数日、成宮くんの年末テレビ出演ラッシュも終わり、帰省準備もし、部屋でぐーたらしていた時のことだ。

「成宮くんが玉子焼き作ってくれるって!」
「誰に言ってんの」
「私自身に」
「なんで俺が料理すると思ったの」
「前に言ってくれたじゃない、玉子焼きなら俺が作るって」
「えーーーーーなんでそういうのだけは覚えてんの」
「いや、酔って記憶なくすのは成宮くんでしょ」

酔っぱらうとすぐ忘れる癖に。そう言ってくるけど、私は忘れることはない。成宮くんが面倒くさいって言ってきたことも、あと、嬉しいこと言ってくれたのも、全部しっかり覚えている。

「玉子焼きなら包丁使わないから大丈夫」
「んーかのえが教えてくれるなら」
「よし、やろう」

さっそく取り掛かろう。腕まくりをし、手を洗い、すぐキッチンに立つ。成宮くんも同じようにして、冷蔵庫を漁った。思ったよりやる気満々じゃないか。

「ボールどこだっけ」
「下の棚」
「たまご何個使う?」
「いつも2つだけど、多い方がやりやすいかな?」
「じゃあ3個にしよ〜」

ちゃっちゃか進めていく成宮くん。割って、出汁を入れて、フライパンをあたためて、あとは焼くだけ。私が作る時も何か他の具材を入れたり冷蔵庫で前準備をしたりしないので、よく考えたら教えることもさほどない。

「ねえ火!火ってどんなもん?」
「箸でちょっと卵たらしてみて……うん、もういいかな」
「入れるよー」
「三分の一くらいね」
「えっ分かんない!三分の一!?」

「多分そのくらい。そしたら奥においやってー……そうそう、そしたらまた三分の一追加してー……奥の塊持ち上げて下にも通してー……そうそう、うん、上手」

初めてにしては手際がいい。何だかんだで成宮くんは全般的に器用だから、料理だって結構こなせてしまう。羨ましい。いつもよりちょっと大きな皿を持ってきて、フライパンを傾けて乗せてもらう。うん、お上手。

「なんかすごく歪じゃない……?」
「玉子焼き用のフライパンじゃないからこんなもんだよ」
「かのえのはもっとぶ厚い!」
「そこは慣れだよね」
「じゃあ明日も俺作る!」
「明日は各自実家でしょ」
「実家で作る!ねーちゃんたちいるから練習する!」

さり気なく、家族を練習台にすることを聞いてしまったが、別に下手でもないので何ら問題はないだろう。

「お、切れば真ん中はいい感じじゃん」
「でしょ?」
「俺様なんでもできちゃうのすごくない?」
「そうだね」
「米も炊けるし、かのえが海外でいつ和食欲しくなっても大丈夫じゃん」
「成宮くんも海外遠征ついてくるの?」
「え、いや……いつか!いつかそういう日もあるかなって!」
「私としては日本でもいいから一回くらいは試合観に来てほしいかな」
「シーズン被んなきゃね!」
「冬に陸上大会かー、厳しいかなー」

ちょっとだけ、ちょっとだけ勇気を出して言ってみたが、華麗に流された。うーん、私が長距離選手だったら冬に来てもらえたのになあ。

冬、いつか機会があればいいな。


(……ていうかかのえ、ごはんこれだけ?)
(考えてなかった)
(もー仕方ないなー!今日は特別に成宮様が焼きそば作ってあげる!)
(野菜なしのいつものやつね)
(刃物は一切持ちません!成宮選手が持つのはボールのみ!)

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