小説 | ナノ


▼ 089

「かのえおかえりー!」
「成宮くんただいま。来てたんだ」
「せっかく鍵貰ったし!オフだし!」
「いつからいたの?」
「昨日の夜〜お風呂使ったけど洗ってない」
「……まあいいけど」

数日分まとめて買ってきた食料品をテーブルに置きながら返事をした。

冬場になるとこうして、実家へ戻る前に成宮くんは私の部屋にやってくる。大学4年生になった私は海外遠征も増えて、成宮くんに合わせることが難しい機会も増えた。なので、今回の出国前に合鍵を渡しておけば、さっそく使ってくれたようだ。

「つーかカルロ、マジでテレビくれたんだねー」
「すごいよね、届いてびっくりした」

学生時代に「プロへ行ったらテレビを買ってくれる」と口約束をしていた神谷くんが、一軍に上がり本当にテレビを送ってくれた。突然とんでもなく大きい荷物が届いて驚いたのはつい最近のこと。

「空港でインタビューされるかのえ、大画面で見るとすげー面白かったよ」
「飛行機降りてすぐに撮るのやめてほしい……」
「大丈夫!かのえは顔じゃないから!」
「……そうだね」

確かに美人ではないけれど、それを本人にしっかり伝えてしまうあたり、やはり成宮くんは成宮くんだ。

「でもまさか、本当に成宮くんが言った通りになるとは……」
「あー囲み取材?慣れてなくてそれも笑った」
「成宮くんはすごいよね、毎回あれ以上の記者に囲まれて」
「まーね!あ、そうだ!あの発言は酷くない!?」
「? なにか酷い返ししたっけ」

食材を冷蔵庫に入れながら会話を続ける。空っぽにしてから出国したのだが、成宮くんが何か買ってきたんだろうか、ビニール袋が入れてある。何か分からないのでそっと避けながら、買ってきたものを入れていく。

「『噂の彼には連絡をしましたか?』ってやつ!」
「え、ごめん、惚気たのまずかった……?」
「あれでのろけのつもり?」
「うん」

すぐに肯定するも、成宮くんはため息をつく。

「『連絡しません。まっすぐ家に帰りたいです』なんて言ったら、俺とじゃなく一人で居たいように聞こえるからね?」
「えー、成宮くんが待っているからって意味だったのに」
「俺が待っているなんて、誰も知らないじゃん」
「確かに」

なるほど、それは考えていなかった。
私としては『帰ったら成宮くんに会えるので』という意味だったのだが、そういえば彼は今年ようやく寮を出るので、私と半同棲状態なんて他の人は知る由もない。のろけるのも難しいな。

「それはそうと、かのえお腹すいてない?」
「すいてる。何かある?」
「俺も空いてる!何かある?」
「……成宮くんに料理を期待した私が間違いだった」
「エース様は刃物持っちゃ駄目だからね〜」
「じゃあお米研いで。おかず何か作るから」
「よっしゃ、今日こそは任せておいて」
「頼むよエース様」

以前私の部屋に来た時、私が台所で調理していると、暇と言って成宮くんが絡んできた。包丁持っていて危ないと注意したのだが、どうやら何か手伝いたかったようで。流石に慣れていない人、しかもプロ野球選手に刃物を渡すわけにもいかないので、米研ぎを頼んだ。結果、随分と胃に優しいごはんが炊き上がった。


「かのえは何作るの?」
「うーん、和食かな。買い込んできたから何でもできるよ」
「かのえは海外行ったあと絶対和食たべたがるよね」
「そうかもしれない」
「あ、梅のやつ食べたい」
「鶏肉の?」
「そうそれ」

いつだったかに食べてもらった料理を思い出す。特にレシピもなく作ったから同じように作れるかは不安だが、成宮くんが気に入ってくれたのならば頑張って思い出すしかない。

「結構時間かかるけどいい?」
「どうせ米炊けるまで時間かかるし」
「それもそうか」
「あっデザート買ってきた!お祝い!」
「今回は入賞も何もしていませんが」
「今季の俺様の活躍を祝して〜!」

満面の笑みでそういう成宮くん。そう、今季の彼の活躍はすさまじかった。
チームの優勝こそ逃したにしろ、個人ではなんちゃら賞を取っていた。どれだったかな。ともかく、今年一番すごかったらしい。

「あ、」
「どしたの」
「もしかして、チーズケーキじゃ」
「よく分かったね?」
「あのですねー……」

スーパーの袋をたたんで、最後に箱を取り出す。おそらく、彼が言っているのと、同じお店のチーズケーキ。


「……お?」
「ご、ごめん……空港で売っていたから」
「思考回路一緒じゃん!驚き〜」
「まさか被るとは……私のは明日にでも後輩にお裾分けしてくるね」
「なんで?どっちも食べようよ、どうせそんな大きくないし」
「いやでも成宮くん甘い物はそんな食べられないでしょ」
「いーの!俺がそっち食べる!かのえは俺の買ってきた方ね」
「同じだと思うけど」
「同じじゃないの!せっかく同じこと考えていたんだから、誰かにやるなんてもったいないじゃん!」

成宮くんのこだわりはよく分からないが、まあこんな年末に押し掛けるのもどうだし、二人で食べよう。食事は控えめにしようと思ったのだが、既に成宮くんは二人分と思えない量の米を研ぎ始めていたので、ケーキは別腹であると信じて私は鶏肉を取り出した。



(……かのえ、あーんしてあげる)
(やっぱり食べきれないんじゃないの)
(ほら、あーん)
(……、)
(よし、もうひとくちー!)

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