小説 | ナノ


▼ 084

「ということで!誕生日おめでとう!」
「……うん」
「(えー……何この反応)」

飾り付けでもした方がよかったのかな。でも二人だけだしそこまでするのも変な感じになると思う。

実は、誕生日プレゼントとしてケーキを作っていた。成宮くんのために、甘さ控えめの。持ち帰りの箱も用意していたけれど時間があるなら食べて行ってもらおうと思ったのだが、失敗だったろうか。

「おうちでケーキ食べるっけ」
「カットケーキはあると思う」
「そっか、被っちゃったかーごめんね」
「そこじゃない!俺が落ち込んでいるのはそこじゃない!」
「じゃあ何」

察してちゃんされても分からないので、本人に直接聞く。成宮くんもわがままだし、私も察しが悪いので、こういう時は直接聞いて、直接言ってもらうのが一番だ。

「……あのさあ、彼女に”家に親いないから、上がっていって?”なんて可愛く言われたら男は期待するもんなの」
「だからお父さんはいるって言ったじゃん」
「そうだよ!忘れていたんだよ!」
「それを怒られても」

書斎にこもっているので結局顔は合わせていないものの、お父さんは家にいる。ちゃんと前もって伝えていた。

「でも半分はかのえの言い方が悪い!謝って!」
「あーもうごめんって。だから食べて」
「食べるよ!ていうかケーキ種類多くない?」
「こっちが誕生日で、こっちが入寮祝いで、こっちはバレンタイン用のほんのりチョコ味ケーキ」
「バレンタインないの!?」
「会えないじゃない」

原田先輩に渡す物と違って手作りを渡したかったのだけれど、そうなると寮に送っていいものかも分からなかった。それならばいっそのことと思い、まとめて作ったのだ。しかし、それも成宮くんには不満だったようで、まーたふくれた怒り顔を見せる。

「バレンタインは寮に送って、会えないけど」
「郵送なら既製品になるけど、いいの?」
「いいよ、気持ちが大切!」
「じゃあこれは……何用にしようかな」
「何用でもいいよ、はい」

そういって、フォークを渡してくる。

「? 私食べていいの?」
「違うよバーカ!食べさせてって言ってんの!」
「言ってないよね」

もうつっこむのも面倒になってきた。王様の言う通り、ケーキをざくざく切って、彼の口に放り込んでいく。さっきまで怒って脹れていた頬が、満足気に動いているのを見て、ちょっとかわいいなと思った。餌付けって感じだ。

「これは誕生日ケーキね、美味しい?」
「んー!」
「よかった、頑張って作った甲斐あったよ」
「……っ手作り!?」
「”郵送なら既製品”って言ったじゃない。あ、手作り苦手だったっけ」
「手作りならもっと味わって食べたのに……っ!」

昔、差し入れ談義をしていたら手作り苦手って言っていた気がする。顔を下げて難しい顔をする成宮くんを見て、今更そんなことを思い出して冷や汗たらしたが、どうやら苦手だからということではないようだ。よかった。

「はいはい、じゃあこっちのバレンタイン仕様のを堪能しておいて」
「はぐっ……んー」
「美味しい?チョコの味する?」
「ほんのりする」
「美味しい?」
「そこそこ」

意見が正直だ。来年はもっと頑張ろう。なんて思いながら彼の口へざくざく入れていけば、あっという間になくなってしまった。



「御馳走様!」
「お粗末様でした」
「……で、プレゼントは?」
「え、今のがプレゼント」
「……プレゼントは?」
「……すみません、残る物はないです」

ようやく機嫌が直ったと思ったのに、まーた成宮くんの表情が荒れる。

「信じられない……っ!」
「だって成宮くんが『寮に持っていくもの限られているんだよねーやんなっちゃう』って言うから!」
「だからってプレゼントなしとかやんなっちゃうよ!プレゼント選ぶの得意なんじゃなかったの!?」
「だって男子にプレゼントなんかしないし……」

女子へのプレゼントは割かし評判がいい。それを聞いて成宮くんもお姉さんへのプレゼント選びに私を頼ったくらいだし。でも男子へ誕生日プレゼントなんて、簡単なものしかしたことがない。自販機で奢るとかそのレベルだ。

せっかく付き合って初めての誕生日なのに、全然上手くいかない。少し落ち込んでしまっていたのだけれど、成宮くんはそんな私の様子なんてあんまり気付いていない様子で、なんだか勝手に照れている。

「そ、そんなことで絆されないからな!」
「? じゃあ卒業式までに何か買う。それでいい?」
「えー……あ、」

プロに行く人の生活が分からなくて、気を利かせたつもりだったことがすべて裏目に出てしまう。こんなことなら原田先輩に聞いておくんだった。いや、こんなことで相談するわけにもいかない。自分の不甲斐なさに落ち込んでいれば、成宮くんが立ち上がって私の勉強机に向かう。

「ねえ、これちょーだい」
「カチューシャ? いいけど、お古だし、女性物だよ」
「それでいーの!むしろそれがいーの!」

成宮くんが手に取ったのは、私が普段勉強中に使っているカチューシャだ。家でしか使っていないのだが、成宮くんに(石を窓に当てられて)呼ばれた時、それを付けたまま会いに行ったことが何度かある。安い物が合わなくてそこそこ値段はした品であることは確かだが、いかんせん私のお古だ。

「じゃあ、今年のプレゼントはこれで」
「うん、今年のところはこれで許してあげる!」
「来年からは、ちゃんと喜んでもらえるもの考えるね」

まあ、成宮くんが満足ならそれでいいかな。



(ほら鳴ちゃん映っているわよ!やだーカチューシャしてる!かわいー!)
(……普通に似合うのがすごい)

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