小説 | ナノ


▼ 082

「そういえば、かのえって冬休みいつ暇?」
「んー……暇ないかも」
「……は?」

コンビニで肉まんを食べながら、そんな話を振られた。ちなみにこれは、デートでも何でもなく、財布を忘れた成宮くんが私を呼び出したので一緒に食べているだけだ。決してデートとは認めない。

「なんで!?もう部活ないじゃん!!」
「年越しはお父さんの実家で、3日4日はお母さんの実家」
「5日は!?」
「部屋探し」
「部屋!?」
「家出るからね」

他の同学年はまだ受験真っただ中だ。その人たちの受験が終わる前に決めてしまわないと、良い物件はあっという間になくなってしまう。母は契約だとかそういったことに疎いので、父と予定を合わせるとなれば、自然と年始になってしまった。

ということを説明したのだけれど、成宮くんの表情は不機嫌丸出しになってしまう。

「……ねえかのえ、俺正月明けには寮入りするの知ってる?」
「す、すみません」
「5日が何の日かも覚えてる?」
「覚えています……」
「じゃあなんでそうなるの?なんで?」
「私も会いたかったんだけど……お父さんが年末年始しか暇なくて」

自分でも探してはいるが、どうも選ぶ基準が分からない。「仕事納めの後なら一緒に回ってやれる」と言ってくれた父を待つので、どうしてもそのタイミングになってしまう。
しかし、冬休み明けには成宮くんがプロの寮へ行ってしまうので、デートするとなればきっと冬休みが最後。しかも、ちょうど誕生日だってある。でも私だってここしかタイミングがない。

「俺がネットで探してあげるから!予定あけてよ!」
「いや、流石にネットはちょっと」
「……分かった」

私の説明がようやく通じたようでホッとする。成宮くんも案外理解ができる人で助かった。と、一瞬だけ思った。

「分かってくれた?ならプレゼントはその前に、」
「俺も一緒に探す」
「……はい?」

「俺も一緒に探す!」


こうして、成宮くんとの部屋探しが決まったのである。


***


「あれ、糸ヶ丘パパは?」
「”せっかくのデートを邪魔できない”って」
「へー良いパパじゃん」

5日朝、成宮くんと待ち合わせたのは、高校の最寄り駅。電車で移動なんて、成宮くんのお姉さんの誕生日プレゼントを買いに行って以来だ。変装しているつもりなのか、成宮くんは黒いニット帽をかぶり、伊達メガネをかけている。

「ねえねえ、それ俺のため?俺のための服?」
「……チガイマス」
「えーっ絶対そうじゃん!やっぱその色似合うって!」
「ねえほんと恥ずかしいからやめて。ひっそり着てきたのに」
「ぷぷっ照れてる照れてる〜!可愛いじゃん!」

成宮くんと下見に行くと母に伝えたら、意気込んで年始のセールに連れていかれた。その時に買ったのがこのロングスカートと、襟口大きめなこの服だ。いつぞや雑誌を読んでいた時に、成宮くんから「きっと似合う」と言われた服とよく似たデザイン。コートを着ているので、多分デザインまでは見えていないと思う。

「目星のエリアが2つあってね、今日はどっちかいいか見て来いってさ」
「部屋の契約とかは?」
「それぞれのエリアでいくつかもう探してくれてあるの。どっちか選んで、明日内装みて契約する」

大学から乗り換えなしで通えて、ランニングができる場所。その二つの条件をあげたら、父が治安と周辺の店の利便性を考えて2つのエリアを考えてくれた。ありがたい。

「近くにコンビニある部屋がいいなー」
「成宮くん住まないでしょ」
「でも遊びにくるし!ということで、どっちの方面から行く?」
「近い方から行きたい」
「オッケー、切符買ってくる」

陸上部は移動に電車を使うことが多いが、成宮くんはほとんど乗らないからICカードを持っていないらしい。いや、持っていたのだがなくしたんだったかな。ともかく、毎回切符を買う。でもきっとこれからの成宮くんは、今まで以上に電車なんて乗ることはなくなるんだろうな。

「何ぼーっとしてんの!」
「わっごめん」
「もーしっかりしてよね!ほら行くよ!」

ぐいと手を引かれる。ずんずん歩いていくものだから、必死に足を動かす。歩きにくくて仕方がないのだが、せっかく繋いてくれた手を離されても困るので、頑張って着いて行った。


***


「かのえはどっちが気に入った?」
「んー……どっちもどっちなんだよねえ」
「優柔不断だなあ」

1つ目のエリアをぐるりと回って、お昼を食べて、2つ目のエリアを見て歩いて、今は3時のおやつを摂っている。落ち着いた、甘味屋さんだ。昨日まで連日おじいちゃんの蕎麦を食べていたからか、和菓子を食べたい気分だった私に成宮くんが合わせてくれた。

「ほら、かのえ」
「ん……美味しい!」
「でしょ?学食とはやっぱり違うよねー」

差し出されたスプーンに乗った白玉だんごをありがたく頂く。もちっとしていて美味しい。出来立てだと白玉ってこんなにも柔らかいんだな。

「大学生になったら色々食べ歩きしたいなあ」
「誰と?」
「大学でできた友達と」
「ファンクラブは作らないでよね」
「できないよ、プロ野球選手じゃあるまいし」
「どうかなー」

苦い顔で空を見上げる成宮くん。確かに高校時代は、そういう雰囲気の応援をしてくれる後輩なんかもいたことはいた。だけど大学生にもなれば、みんな落ち着いてしまうだろう。高校生って、なんでも楽しい時期だから。

「成宮くんはいっぱいファン作ってね」
「嫉妬しない?」
「しないしない」
「してよ!」
「えー……」

たくさん活躍して、たくさんファンを作って、たくさんの人から応援されてほしい。それが普通だと思うのに、どうやら違うらしい。いや、それは合ってはいるが、嫉妬はしてほしいそうだ。難しいな。

「私は成宮くんが人気者になってくれたら嬉しいけど」
「トーゼン!老若男女問わず人気になるよ!」
「なら嬉しくなるね」
「でもさー、ちょっとくらい嫉妬してくれたりないの?」
「私だっていい成績残しているのにーって?」
「なんで思考がライバルなのさ!彼女としてだよ!」
「んー、どうだろ」
「女子アナと週刊誌載っちゃったりしても?」
「成宮くんが嘘だよって言ってくれたら、私はそれを信じるよ」
「んー……」
「だからちゃんと言ってよ?」
「まー、うん」
「言 っ て よ ?」
「わ、分かったよ!」

念押しで伝えればようやく頷く。まったく、どれだけ嫉妬されたいんだ。

「ま、その時になってみないと分からないし、とりあえず今日は帰ろう」
「どっちか決まってないじゃん」
「見て回った感想伝えて、お母さんたちと相談してみる」
「それがいいよ、高校生じゃ分かんないもん」
「もう高校生でもなくなっちゃうのにねー」
「なー」

ちょっとしんみりした雰囲気で、甘味処を後にする。こっちもエリアも落ち着いていて好きだけど、朝回った方も店が多くて生活は快適そうなんだよね。

駅までを遠回りしつつ歩いていれば、ふと、ある建物に気付いた。

(ねえ!成宮くん!)
(ん?)
(あそこ行きたい!)

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