小説 | ナノ


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「かのえ、おはよ」
「あ、成宮くんおはよー」

「「「(((どっちだ……!?)))」」」


成宮くんに告白の返事をした翌日、いつも通りに登校して、いつも通りに成宮くんと挨拶をする。クラスの視線が集まったのは、きっと中途半端なうわさが流れているからだろう。


「……かのえ、今日予定ある?」
「ん?今日は外部で練習する予定」
「えーじゃあ今度いつ家行っていい?」
「休日なら午前午後どっちかはいると思うけど」
「ならまた連絡する」
「うん、分かった」

私との会話が終わり、成宮くんが前を向く。瞬間、クラスの女子全員が集まってきた。



「名前呼び!?」
「ってことは告白成功?」
「家って!もうそんな仲なの!?」
「ちょっと!経緯説明しなさいよ!」

「ま、まって、一気に喋らないで」


かと思えば、成宮くんは男子に肩を掴まれ、教室の反対側にまで引っ張られていく。


「おい成宮!やったな!」
「お前ならやると思っていたぜ」
「あんな告白して失敗したら残念会予定だったのによー」
「つーかもう家行ってんの?手出しちゃったわけ?」

「言うわけねーだろバーカ」


「おーいお前ら、もう担任が来ているんだぞー……」


ざわつく教室、担任の声を聞いて、ようやくみんな解散した。


***


結局、今日の午前中は進路説明だの合同授業だので移動が続き、クラスメイトと落ち着いて話せたのは昼休みになってからだった。

いつもは食堂に行っているグループも、急いでパンを買ってきたと言って、成宮くんの話を聞いている。別に私が喋ってもいいのだが、成宮くんが「共通の知り合いには俺が全部話す」とのことだったので、私は陸上部くらいにしか言っていない。


「と、いうことで、糸ヶ丘かのえと付き合うことになりましたーイェイ!」
「何と言って告白したんですかー?」
「お相手のどこが好きですかー?」
「告白はどちらからー?」
「分かり切ったこと聞かないでくれる!?」

成宮くんが自分の席に座ったまま、ナナメ後ろをみて喋ればクラス全員に届く。なんなら、声が大きいので廊下まで駄々洩れだ。しかし、昨日成宮くんが廊下で後輩相手に本気で怒っていたからか、今日の廊下は静かだ。成宮くんと比べて食べるのが遅い私は、黙々と箸を動かしながらその様子を見守っていた。見守っていたら、突如廊下側の窓がひらく。

「浮かれてんじゃん」
「カルロ!別に普通だし!かのえも普通だし!みてよこれ!」
「これって、お前彼女に対してなあ」
「神谷くんも話聞きにきたの?」
「いや、俺は昨日散々聞いた」
「ふーん?じゃあ何か用事でも?」
「糸ヶ丘におめでとうって言いに来た」

予想外の理由に、思わず止まってしまった。

「うん、ふふ、ありがとう」
「なんで笑うんだよ」
「神谷くんにおめでとうって言われると、めでたいことなんだなって」
「なんだそれ」
「実感するの今更!?将来のプロ野球を背負うこの俺と付き合えたのに!?」

相変わらずの自信たっぷり発言は、いっそすがすがしい。けらけら笑っていれば、クラスメイトから声がとぶ。


「つーか成宮、ドラフト前にこんなことして影響でないんか?」


そうえいば、ドラフト会議たるものは来週だった気がする。成宮くんは言ってくれないが、神谷くんに教えてもらった。私はプロ野球の云々に疎いので、この件も神谷くんに尋ねてみる。

「……影響出るの?」
「鳴は話題性あるけど、普通に実力で指名あるだろうから平気じゃねーの?」
「真摯な告白をマイナスに捉えるような球団に俺は勿体ないからいーの!」
「いいの?本当に?どうしよう、別れる?」
「は!?別れるわけないじゃん!」
「でも、」
「彼女いること隠さない!でもかのえに迷惑かけないよう名前は言わない!」

それを認めてくれる球団に行く。そんなわがままが通るのだろうか。いやしかし、指名してくる段階で分かっているから通るのかもしれない。

「分かった。じゃあ私も相手が成宮くんとは言わない」
「ま、どっかからは洩れるだろうけど、みんなも言わないでよね〜」

完全に私と成宮くんと神谷くんの3人で会話をしていたが、案の定クラスメイトはみんな聞いていたようで。しかし、ちょっとしたブーイングがとぶ。

「えーもったいなーい!」
「いいじゃん、都のプリンスと陸上クイーン!」
「成宮くんってキングって呼ばれてなかった?」
「野球部にはそう呼ばれているよね〜?キングとクイーンのがよくない?」
「キングとクイーン!週刊誌の食いつきすごそー!」


好き勝手言ってくれる。ふと視線を成宮くんに戻せば、先ほどまでは笑顔でクラスメイトに話しかけていたのに、今、彼のこめかみには皺が寄っていた。

(この成宮くんは、怒っているな)

みんなの言いたいことも分かる。どうせバレるなら自分の口から言いたいんだろう。ネットで流れる情報と、クラスメイトの喋る話なら信憑性が全然違う。みんなのことは信頼しているから、嘘を言うことはなくても、その先の知り合いにと伝えていくうちに事実が曲解する可能性もある。それは困る。


「なあ、糸ヶ丘は許してくれない?」
「確かに!成宮がどうこう言っても、糸ヶ丘がオッケー出せばいいじゃん!」
「成宮くんが嫌がっているからダメ」
「え〜とか言いながら糸ヶ丘は仕方がないってなりそ〜」
「言いません」
「なんでー?」

成宮くんが揺らがないと分かって、私に聞いてくるクラスメイトたち。だけど、私も揺らがない。成宮くんが昨日言ってくれた言葉を借りて、その意思を伝える。


「だって、好きな人が嫌がることされるのは、嫌に決まっているじゃない」


そういえばクラスの男子は一瞬止まったものの、「ちぇ」と言って諦めた様子を見せた。ようやく教室が落ち着く。私もようやく弁当を食べ進められた。



(……神谷くん、どうかした?)
(なんか今の、女王様って感じだった)
(えーそんなことないでしょ)

(……へへっ)
(鳴はなんでそんな照れてんだよ)

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