小説 | ナノ


▼ 080

「……成宮くん?」

机に乗り上げて、抱き着いてくる成宮くん。思わずバランスを崩しそうになるけれど、なんとか飛びついてきた彼を抱え込む。よく耐えた、私。


「あっぶない!バカ!」
「へへっ、かのえに馬鹿って言われた」
「何喜んでいるの、頭打った?平気?」
「打ってない!よーーーーーうやくほっとしてるとこ!3日間長かった〜」
「3日って言ったのは成宮くんじゃない」
「だって即答しろって言ったら絶対断っていたじゃん」
「んー、どうだろ」

あの時は頭が追い付いていなかったから、どう考えていたかなんて予想ができない。でも、ちゃんと考える時間がもらえて助かったし、嬉しかった。

「いーや、絶対フラれてた。つーか日曜日の段階ではフラれると思ってたし」
「正直言うと、今朝まで悩んでいたんだけどね、」
「今朝!?ギリギリすぎない!?やっぱりあの動画?」
「どれだけ動画が気がかりなのよ」

突然話題に乗せられた話に、首をかしげる。ちょっと距離が近いので、彼の肩を掴んでちゃんと座らせようとすれば、くちびるを尖らせて不満をあらわにした。


「だって、好きな人が嫌がることされるのは、嫌に決まってんじゃん」



不貞腐れながらも、そう言ってくれる。好きな人。成宮くんの好きな人に、なっていたんだな私は。ちょっとくすぐったくなってくる。

「別に、私はそんな気にしてないよ。動画に私は映ってないわけだし」
「本当に?ならいいけど」
「それに、心配していたから私の名前、出さないでいてくれたんでしょ?」

恥ずかしさを隠すようにそう伝えれば、成宮くんは何とか誤魔化されてくれたようで、ただただ素直に納得してくれた。

「糸ヶ丘がメディア慣れしていてよかった〜」
「成宮くんほどじゃないよ」
「でもいつかバレるし、そしたら糸ヶ丘にも取材行っちゃうじゃん」
「いいんじゃない?正直に話せば」
「……男前だな」

成宮くんから男前と言われて、ちょっと面白くなってくる。実際そうなった時にそんな度胸があるのかは分からないけれど。

「でもお互い以外で話題にならないように、お互い真面目に生きましょう」
「トーゼン!……っていうか、話戻すけど、なんで今朝?なんかあった?」
「そうそう、これもらったの」

自分の鞄から、赤い紙を取り出す。途端、成宮くんの顔色も似たような色になっていく。照れるとおでこ赤くなるんだ。可愛いな。

「なっ!?それ!!捨てたと思ったのに!」

彼に見せつけたのは、体育祭の借り物競争のお題カード。体育委員の女の子が書いたんだなって思う可愛らしい文字で、”成宮くんが私を選んでくれたお題”が書いてある。

「神谷くんが拾って、白河くんから私に届きました」
「謎リレーすんなよ!あーもう最悪かっこわるい!」
「えっ駄目だった?」
「駄目に決まってんじゃん!」

納得してくれるかと思ったのに、なぜかすごく怒られる。なぜ。

「でもこれのおかげで成宮くんって昔から私のこと想ってくれていたのかなーって思えたのに」
「だー違う!言っておくけどその時はまだかのえのこと全然好きじゃなかったから!」
「えー、じゃあなんでこのお題、」
「そ、それは……」

てっきり、この時から好いていてくれたのかと思ったのに。なんだか手のひら返されたような気持ちでちょっと落ち込む。少ししょげた私が可哀想になったのか、成宮くんはしょっぱい顔をしながら説明をしてくれた。


「……あの頃の俺はまだかのえをライバル意識していて、そんな昔の俺の気持ちを尊重してあげたいから言いたくないんだけど、」
「いや、成宮くん自身のことでしょ」

「でも好きじゃなかったの!だけど、この俺の隣にいるなら俺様くらいできた人間じゃないとやだったの!」
「へー……できた人間だと思ってくれていたんだ。へー?」
「ほらもー!こうなるからいやだったんだよ!」

「ふふっごめんごめん。ごめ、ごめんって、ちょっと顔潰さないで、かお、つふさないへ」
「うっさい!ばーか!あほ!」


まるで去年の自分を他人のように扱う成宮くんに笑ってしまった。しかし、それが気にくわないのか私の頬を両手でつぶしてくる。やっぱり成宮くんの手は大きい。包まれている感覚に、イヤだとかそういう気持ちはなかった。

”あの時はまだ好きじゃなかった”らしいけど、そういう風に私のことを想ってくれていたって分かっただけで、私には充分だ。

カサリと、私の手から赤い紙が落ちる。だけどそんなことも気付かないくらい、私は幸せでいっぱいだった。


(『生涯を共にしたい人』)

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