小説 | ナノ


▼ 079

「成宮くん」
「場所変えよっか」


放課後、糸ヶ丘に声をかけられた。ぶっちゃけ、返事が怖くてちょっと怯えている。今日はずっと喋らないつもりだったのに、昼にあんな風になるなら午前中も喋っておけばよかった。

朝はまだよかった。挨拶した時に俺が渡したヘアピンをしていたことも気付いたから言いたくて仕方がなかったし、糸ヶ丘が見知らぬ後輩から「糸ヶ丘先輩がなんか付けてるのめずらしー!かわいいですね!」って言われていた時も「俺が選んだんだから」って割り込みたかった。

人のいないところがいい。でもこんな調子だから、どこへ行っても誰かに見られる可能性がある。やっぱ、あそこだよなあ。




「……許可は、」
「取った!」
「本当に?」

ホワイトデーの時に寮の中までは来てくれなかったことを思い出して、今回はちゃんと前準備万端だ。

「本当だって!あの動画が出回ったせいで心配した先生たちに呼び出されてさー、ちょうどいいやって思ってその時に『ケリつける為に相手と寮で話したいです』って言ったら、林田部長が『青春だからいいよ』って」
「絶対そうとは言ってないでしょ」

糸ヶ丘が疑いの目を向けてくる。どんだけ信用ないんだよ、俺。

「でも似たようなことは言ってた。そんで監督の説得もしてくれた」
「林田先生、一体どうしたの……」
「多分、部長していなかったら甲子園の入場行進で泣くタイプだね」

糸ヶ丘が言っていたセリフを真似すると、キョトンとした顔をする。あーもう、そういう表情するのやめてほしい。「女子に手を出さない」って約束で寮に連れ込むのOK貰ったんだから。



「お邪魔しまーす……」
「いや、まだ廊下だから」
「思ったより、廊下狭いね」
「そーなんだよ、雅さんいた時とかすっげー邪魔だったし」

まだ部屋に入ってもいない段階で、律儀に挨拶する糸ヶ丘に笑ってしまう。きょろきょろされるけど、そんなめずらしいものもない。さっさと部屋に行こうと手招きをする。

「お、お邪魔します」
「そう、言うべきはここだよね」
「わー……普通に汚い」
「失礼な!そこそこ片付けたっての!」

先ほど以上に視線を動かす姿は、色々通り越してはずかしくなってきた。一応、日曜日にちゃんと部屋は片付けた。変なものはないはず。机だって勝之が汚いっていうからスペース開けたし、糸ヶ丘を見習って座布団もある。あ、俺の分がない。

「そこ座って」
「ありがと」
「……で、考えた?」
「うん、しっかり3日間」

床に敷いた四角い座布団に糸ヶ丘が座って、俺がベッドに腰かける。間にちっちゃい机を置いたのは、一応、線引きとして。




「あのね、やっぱり私、成宮くんとは考え方が違うの」

初球、ど真ん中、ストレート。えげつない対応に思わず黙り込む。


「つまり……それは、」
「ちょっと、ちゃんと聞いてくれるんでしょ」
「……うん」


「でね、考えたんだけど、成宮くんの隣に誰がいても、私はきっと嫉妬しない。これは文化祭思い出しての経験則ね」

(なんでだよ、しろよ)

「この先、成宮くんが私のしらないところでどんな人と付き合って、どんな人と結婚しても、『成宮くんが選んだ人だから、素敵な人なんだなー』って納得すると思うの」

(だから、俺が選んだのはお前なのに)



「でもね、」

「私の隣にいてくれるのは、成宮くんがいい」




顔をあげる。耳を赤くした糸ヶ丘が、そこにいた。照れると耳が赤くなるんだ、初めて知った。


「えっ……つまり、俺と同じじゃないの?」
「逆でしょ。私は”成宮くんの隣は私じゃなきゃヤダ!”ってならないもの」
「”成宮鳴の隣は誰でもいいけど、糸ヶ丘かのえの隣は成宮鳴じゃなきゃイヤ”なんだから、同じでしょ」
「そう考えたら、確かに……?」


「まーどっちでもいいんだけど!つまり!どういうこと!ちゃんと言って!」



耳が真っ赤なのに、普段通りの口調で喋ろうとする糸ヶ丘が可愛くて、思わずそんなことを言ってしまう。ここまできたのなら、はっきり言ってほしい。

俺のわがままに、いつもの感じで、ちょっと困った感じで笑う糸ヶ丘。




「私ね、成宮くんのことが――」

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