小説 | ナノ


▼ 075

「よう鳴、生きてんのか」
「カルロ……助けて……」
「お、糸ヶ丘に振られたか?」
「振られてない……でも無理っぽい……」

ベッドに突っ伏している俺に、カルロが話しかけてくる。

最後の文化祭は無事に終わった。クラス屋台も1位の売上で、麺を買い足してからはずっと頑張って働き続けた。だから糸ヶ丘とは普通に仕事をして、普通にクラスメイトとしてハイタッチをして、何もなくお互い帰路に着いた。つっても、俺は寮だけど。

文化祭が終わった今日は、外部まで行く時間もないので現役生と混ざって練習をして、戻ってきて、風呂に入って、あからさまに落ち込んでいたらカルロが部屋に来てくれた。

「やっぱり2人にさせてから何か言われたんだ?」
「”自分に彼氏ができなかったら満足なんじゃないか”って聞かれた」
「ちゃんと否定はしたのか」

カルロはいちいち確認してくる。

「満足はしないけど、付き合えないならそっちのがマシって伝えた」
「相変わらずの王様っぷりだな」
「だってあいつの隣に他の男がいるなんて絶対無理」

そう伝えれば、カルロは軽く笑う。

「で、糸ヶ丘の返事は?」
「それはライバル意識じゃないのかって聞かれた。ないって言っても信じられないって……そんなこと言われたってさあ……」


(一目惚れでもないんだから、どうしようもないじゃんか)


枕に顔を埋めながら、深くため息をつく。ライバル意識なんて、とっくの昔になくなっている。


「……俺は鳴が一年以上も片思い続けているって知っているけどさ、」
「は!?」
「去年の夏には好きだったろ?」
「な、ななっ!カルロお前っ!!」

突然の指摘に慌てて顔をあげて、勝手に座り込んでいるカルロを見下ろす。こっちの顔色なんて全く知らぬ存ぜぬといった様子で、カルロは喋り続ける。

「でも他のやつからしたら、最近まで喧嘩売っていたイメージあると思うぞ」
「最近全然喧嘩売ってなくない!?」
「知らねえよ。クラスも違うんだし」
「知らないのに勝手なイメージで喋んないで!」
「でも、糸ヶ丘からしてもそのイメージなんだろ?」
「ぐっ」

正論だ。糸ヶ丘本人がそう言っている。でも俺があいつに喧嘩売っていたのなんて最初の頃だけ。好きって気付いてからはずっとまっすぐにアプローチしてきたつもりだ。そりゃ言葉のアヤってやつで、ライバルだって言ったこともある。だけど。だけど。


(――好きって気持ち、信じてもらえないとは思わなかった)


いや、それは信じてもらえている。だけど糸ヶ丘は、一瞬の気の迷いとか、そういう風に捉えている気がする。俺はずっと好きだったし、これからも絶対にずっと好きな自信あるのに。


「……なーんで信じてもらえないかなあ」
「日頃の行い。鳴はすぐ嘘つくから信じにくいだろ」
「そんなに嘘ついてる!?正直に生きているじゃん!」

自分で言っちゃあなんだが、随分とわがまま言って生きている。いちいち嘘つく必要なんてないし。

「見栄張ってファンにお返ししているって言ったとか」
「そ、それは後でちゃんと正直に話したよ」
「つーかバレたんだろ」

「あと、頼まれたの売り切れだったって嘘ついて、安いアイス買ったりね」
「か、勝之!」
「数学のノート返して」

すっかり忘れていた。勝手に入ってきてたことを咎めたら、逆に勝之からキレられた。ノート借りっぱなしなのと勝手に入ってくるのは別だろ。まあノックしてたの無視したけど。

「何しょーもない嘘ついてんだ」
「千円で糸ヶ丘のアイスと雑誌と送料と払わなきゃだったんだもん」
「こんなことになるなら、雑誌を諦めるべきだったね」
「うっさいな!つーか糸ヶ丘にはバレてないし!」
「俺が喋ったから知ってる」
「何してくれてんの!?」

なんでそんなこと言ってくれたんだ。しかも俺の机勝手に漁っているし。ノートはそこにはねえよ。いやでも、まさかそんなちっちゃい嘘まで糸ヶ丘が根に持っているとは思わないけど、でもこういう積み重ねが駄目だったのか。そんなこと言ったって、済んだことはどうしもうもない。どうしたらいい。俺は、どうすればいい。

「それよりもさ、」
「それよりも!?」
「1日目のお礼、何くれるの」
「お礼?白河に何頼んだんだ?」

まさかカルロがいるタイミングで聞いてくると思わなかった。あんまり言いたくなかったけど、仕方ないから説明する。

「……糸ヶ丘が一人で居るはずだから、そこに行ってほしいって」
「白河には糸ヶ丘のこと頼んでおいて、俺には厳しいのな」
「だって勝之が女の子と二人きりだったら誰も声かけないでしょ」
「予想以上の大泣きだったから、一人にさせておかなくてよかったかもね」

まあ俺は面倒だったけど。愚痴垂れる勝之をみて、こいつに頼んで正解だったなと思った。他の男だったらギャップでコロッといっていたかもしれない。でも確かに、あそこまで大泣きしてくれるとは思わなかった。

一人にさせておいたら、文化祭でうかれたやつらが糸ヶ丘に声をかける可能性なんてそこら中にある。せっかく俺が雅さんに勝てるように頑張って考えた演説も、聞いてもらえなきゃ意味がない。

「へー……」
「なんだよカルロ」
「いや、あらためて、すげー糸ヶ丘のこと好きだなって」
「すげー好きだし!言ってたじゃん!」

「め、鳴さん!」
「なに樹!いま大事な話してんの!」

ノックもなしに突然入ってきた後輩に、割とガチめにキレる。しかし、樹は謝ることもせず、ケータイをこちらに向けた。



「鳴さんの告白、SNSで話題になっています!」


「……は?」





prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -