小説 | ナノ


▼ 074

「糸ヶ丘!こっちに3つ!」
「成宮くん!はいおまち!」

1日目以上に、焼きそば屋台は大盛況だ。


文化祭2日目、私たちは昨日と同じく、自分の担当シフトで精一杯働いていた。
なんといっても今日は店先に成宮くん。2日目の今日は学外からの一般参加者もいるので、学校内外のファンや野球少年が押し寄せてきている。作る担当の私も腕がなる。

写真をせびられても成宮くんに2ショットなんかは撮っている暇がないと、並んでいる人も分かっているようで、焼きそば片手にピースをする成宮くんのピンショットを撮って次々に去っていく。そのため、思ったよりも混雑はなく、いい調子で売り上げがあがっていった。


「かのえちゃん、顔あつくない?」
「え、どうだろ」
「私交代はいるから、休んできなよ」
「ありがと、そうする」

ずっと鉄板の前にいて顔が赤くなっていたようだ。必死に焼いていたら気付かなかった。友人の優しさに感謝しつつ、待機室となっている自分たちの教室へ戻ってきた。





「お、糸ヶ丘いた」
「神谷くん?そっちも休憩?」

みんな文化祭を回っているので誰もいない。失敗してちょっと焦げ付いてしまった焼きそばを持ってきたのでひとり食べていれば、扉の開く音がする。神谷くんだ。

「アイスがなくなって買い出し走ってもらっているとこ」
「あら、それはそれは」

彼のクラスはアイスフロートだ。この暑さなら、それはもう飛ぶように売れるだろう。私の前の席に座った神谷くんは、横向きになって私に話しかけた。

「……つーかさ、お前らなんで普通に焼きそば売っているわけ?」
「焼きそば屋だからね」
「そうじゃなくて」
「あの状況じゃ、必死に焼きそば売るしかないでしょ」

思い出すのは、つい先ほどまでいた自分たちのクラスの屋台。多分、まだまだ列が途切れる様子はないと思う。昨日のうちに買い出しを追加しておいて正解だった。

「そうじゃなくて、分かってんだろ」
「……あーそれは、えっとですね、」

彼の言わんとすることは分かる。成宮くんとどうなったかだ。
しかし、何まで喋っていいのか分からないので、視線を逸らして言いよどむ。神谷くんが、ため息をつく声が聞こえた。そして、それと同時にガラリと扉の開く音がする。



「俺が『3日考えてから返事して』って言ったんだよ」
「な、成宮くん」
「つーか二人きりでいるの止めてくんない?腹立つから上がってきちゃった」
「え、まだシフトじゃ」
「焼きそば完売〜今チャリ通学の男子が業務スーパーまで走っているとこ」

結局私たちのクラスも読みが甘かったようだ。あれだけ準備しておいたのになくなるとは。成宮くん効果は絶大である。

「ということで!カルロはどっか行っていいよ!」
「お前ら二人にさせて大丈夫か」
「私も成宮くんと話したいことあったし、大丈夫だよ」

私も便乗してそう言えば、神谷くんはまたひとつため息をついて教室を出て行った。きっちり扉も閉めて。そりゃあ心配にもなるだろう、けんか腰の態度でやりとりしていた男女が、突然こんな状況なのだから。

「あ、焼きそばいいなー」
「食べる?もう1パックあるの」
「どんだけ食うつもりだったんだよ、食うけど」

片手で椅子を引き、もう片方の手で口にくわえた箸を割りながら成宮くんが先ほどまで神谷くんが座っていた席に腰かける。よっぽどお腹が空いていたのか、すごい勢いで焼きそばがなくなっていく。

「美味しい?」
「焦げてるけどね」
「売り物にならない分だから」
「失敗作かよ!タダだからいいけど!」

文句を言いつつも、しっかり完食してくれた。私も半分まで食べていたので、同じタイミングで食べ終わる。



「で、糸ヶ丘が話したいことって何?」
「えっと……率直に聞いてもいい?」
「言ってみ」

「成宮くんは、私とどうなりたいの」


成宮くんの眉間にキュッと皺が寄る。うまく質問できていないのが分かった。

「そりゃ恋人になりたいけど」
「ごめん、なんていうのかな……たとえばさ、私が成宮くんの好意を断ったとして、でも私がこのまま卒業まで誰とも付き合わなかったら成宮くんはそれで満足?」
「満足はしないけど、俺が付き合えないなら、そうであってほしい」


「それは、私に対するライバル意識がないって言い切れる?」


成宮くんが、箸を止める。

「……それマジで聞いてんの?」
「本気だよ」

だってそうだ。今までずっとライバル視してきたから、私に先に恋人ができてほしくない。そういった感情がないと言い切れるのだろうか。


成宮くんが私のことを好いてくれているのは、きっと本当だ。ふざけてあんな告白をするような人じゃない。それは分かっている。

「成宮くんはどんな人が隣にいても、自力で幸せになる人だと私も思うの」
「ま、ファンの後輩でも幼馴染でも女子アナでも、幸せになる自信はあるね」
「幼馴染いたんだ」
「いんや、物の例え」
「そっか。うん、でもね、だからこそ、私に恋人ができなかったらそれでいいって思っているんじゃないかって、どうしても思っちゃうの」
「……”そんなわけない”って今言っても、伝わらない?」

眉間の皺はなくなったけど、すっと冷めた表情になる。彼の目が、細くなる。でも、ここで御機嫌取りの言葉なんてかけるべきではない。



「……時間がどうこうって言うのは間違っているのかもしれないけど、」

「やっぱり、成宮くんからはライバル視されてきたっていう感覚がどうしても強いんだ」

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