小説 | ナノ


▼ 073

何一つ分からないまま、成宮くんは去ってしまった。

文化祭真っただ中で一人になってしまった私はどうしようかと思ったが、とりあえず涙が落ち着くまでここにいよう。ぼんやりと渡り廊下を見上げて、色んな人の叫びを聞いていた。クラスの宣伝、バンド解散の報告、部活動の紹介。途中で一年生が林田先生へ向けて「チョークの筆圧が薄い」って叫んでいたのは笑ってしまった。確かにあの人の板書、薄いよね。

そうこうしていると、いよいよラストの絶叫とのアナウンスが入った。

向こうで見ている生徒がざわついているのが分かる。そういえば、全国入賞していた柔道部も早々に終わっていたし、サッカー部はさっき出てきていた。一体誰がトリなんだろう。

そう考えているうち、また黄色い歓声が上がる。



先ほどと同じように、旧校舎から成宮くんが歩いてきた。今度はこっちを全く見ずに、渡り廊下の真ん中まで一直線に歩いていく。今度はちゃんと、メガホンを持っているようだ。



『えー、3年6組の成宮鳴です』



『僕には今、好きな人がいます』



絶叫、絶叫、絶叫。絶叫が聞こえる。成宮くんじゃなくて、女子たちの。

上にいた成宮くんの言葉を皮切りに、地上にいる女子生徒たちからの悲鳴が沸き起こる。それに対して、男子生徒の声ではすごく楽しそうな歓声が上がっていた。周囲と比べて声の大きなグループは、3年生の野球部たちだろうか。神谷くんが福田くんと肩を組んで、指笛を吹いている。

なんて、冷静な振りをして、私は他人事のように見ていた。が、ふと気付く。



(……さっき、成宮くんはなんと言って立ち去った?)



『あーあー、メガホンって喋りにくいね。喋るけど。みんな静かに聞いてねー。先に言うけど名前は言いませーん。つーか”成宮鳴とセットの女の子”って言ったらパッと思いつくでしょ?その人で合っているよ。』


『あーほらみんな嘘でしょーとか言ってるじゃん、ガチだよ。おれずーーーーーっとあいつのこと好きでアピールしているのに、本人はおろか周りにも恋愛対象として一緒にいると思われていなかったんだよねー。牽制していたつもりなのにさ』


『どういうとこが好き?えーっとね、とりあえず俺のこと甘やかしてくれるとこが好き。でもたまに頑固なんだよね、そういうとこも好き。あと誕生日覚えていてくれたり、バレンタインで俺だけ違うものくれたりするのもすっげー可愛いって思った。何もらったかって?うっせーほっとけ。それとねー、話しかける時はちゃんと名前呼んでくれるのも好き。いや、これは好きになってから嬉しいって思ったことかな。まあいいや』


『でも何より、そういうこと誰にでもやっちゃう人たらしなとこが好き。もっとあるけど、あんまり言うとみんながあいつのかわいーとこ気付いちゃうからこの辺にしておくね』


『俺自身は、隣にいるのが誰であっても、たとえひとりでも幸せになれる人間だけど、ソイツが俺以外の男に幸せな顔させられているのは絶っっっっ対イヤなので、今、ここで言います』





『ずっと前から好きでした。付き合ってください』






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