小説 | ナノ


▼ 071

「糸ヶ丘、いた」
「白河くん?寮に戻っていたの?」
「鳴にクラス衣装汚された」
「ああ……お疲れ様」

1階の外廊下でひとりぼーっとして居たら、校舎とは逆側――野球部寮から白河くんが歩いてきた。どうやら寮まで戻って洗剤を使ってハッピを洗っていたらしい。水洗いじゃなくてちゃんと落とそうとする辺り、彼の真面目さが出ている。

「戻らないの?」
「これ乾いてないし」
「それもそうか」
「どうせ戻っても、今は大して客来ないでしょ」

座る場所もないので柱にもたれかかって立っていれば、白河くんも隣に立ってくれる。

白河くんが言うとおり、今外に出ている生徒は、ほとんどみんな絶叫大会待ちだ。見渡してみると、中庭にいる人たちも、校舎内にいる人たちも、今か今かとスタートを待ちながら2階渡り廊下が見える場所にいる。

「糸ヶ丘は一人なんだ」
「後輩が写真部で活動中なの」
「ああ、ボブ」
「みんなそう呼ぶんだね」
「鳴からの情報しかないし」

確かに、彼女との関わりといえば、成宮くんくらいしかないだろう。どれだけ言いふらしていたんだと、ちょっと呆れてしまう。

「そういえば、成宮くんの聞いていく?」
「トップバッターだからね、それだけ聞いて戻る」
「あれ、野球部って大トリじゃないの?」
「今年は最初だって」

やはり最後は野球部、というのが恒例だったはず。そういえば今年は柔道部とサッカー部も全国に出場していたから、どっちかの部が最後なのかもしれない。どっちにしろ、聞けるならそれでいいや。

「喋る内容って、一人で考えているの?」
「去年と今年はそう」
「一昨年は?」
「三年全員で考えていたらしいよ」
「じゃあ今年は成宮くんの言葉になるわけだ」
「流石にチェックはしたけどね、俺たちの言葉にもなるわけだから」
「へえ、楽しみ」
「あ、学祭委員の人が出てきた」


2階の渡り廊下を見上げていたら、実行委員の人が現れた。台座を置いて、拡声器で企画の説明を始める。「稲実生が、思いの丈を叫びます」と、シンプルに説明して、また戻っていった。

そしてすぐ、入れ替わるようにトップバッターの成宮くんが旧校舎側から歩いてくる。わあっと声が上がった。私のメールを見てくれていたのが、こちらを一瞬見てくれて、小さくピースを向けてくる。こっちが反応を返す前に向こうをむいてしまったけど。

拡声器で喋るはずなのに、成宮くんの手には何もない。忘れたのかと思ったが、最初からそのつもりだった様子だ。そのまま手を後ろで組んで立つ。



「えー、野球部3年の成宮鳴です!」

「この場を借り、あらためて皆さんへの感謝の気持ちを述べたいと思います!」

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