小説 | ナノ


▼ 069

「糸ヶ丘、こっちもひとつ」
「白河くん!はいおまち!」

予想以上に、焼きそば屋台は盛況だ。


文化祭1日目。晴天に恵まれたおかげで、3年生が出店している中庭の屋台も人であふれていた。

最初は接客に入るようにと言われていた私だが、どうしても焼きそばを焼きたいと言って今回のシフトは裏手に回らせてもらっている。代わりに白河くんが看板男だ。女装コンテストとどっちがいいかの二択を迫られて、接客を取ったのである。全然愛想なくて潔い。むしろそのおかげで回転はすこぶる早いので、売り上げはとんでもないことになっていそうだ。

「えー!鳴ちゃんいないんですかー?」
「今日はいない、明日は入る」
「じゃあまた明日もきまーす!」

そして容赦なく成宮くんのシフトもばらす。長居されても困るので、正直に言ってしまった方が楽だと、開始30分くらいで気付いたようだ。




「っぷはー!暑い!楽しい!」
「よくずっと鉄板の前にいられるよね」
「楽しいよ?次交代する?」

屋台の裏で水分補給をしていたら、同じタイミングで白河くんも引っ込んできた。だけど、彼はハッピを脱ぎ始める。

「俺は一旦シフト終わりで休憩」
「そうだった、白河くん今からどこ回るの?」
「後輩のとこに行く。その前に写真部寄って鳴と合流」
「あ、成宮くん写真部行ったの」
「……聞いたんだ?」
「聞いたっていうか、私がオススメしたの」
「つまり、聞いてないんだ」
「えっ何が」

そのうち分かるんじゃないの。そういって白河くんはハッピを脱いだ。宣伝にもなるから、そのまま着て回ってもいいのに。言ってみたが、渋い顔をされるだけで終わった。




昼シフトが終わり、ようやく私も自由時間となった。
同じタイミングで自由になった友人たちと一緒に他クラスを回っていれば、ぐいと腕を引かれた。

「わ、」

バランスを崩して背中がトンと何かに当たる。周囲の黄色い声援を聞いただけで誰か分かった。そのまま首をそらせて顔を上げれば、すぐそばに成宮くんの顔。

「なーにしてんの」
「女子みんなで腹ごしらえ」

きゃあきゃあと騒がれているのに、成宮くんは全然気にしない様子でそのまま話しかけてくる。流石にちょっと喋りにくいから成宮くんから離れて向かい合おうとしたけれど、腕は離してもらえない。

「……ねえ、5分だけ糸ヶ丘貸して」
「「「おっけー!」」」
「え、ちょっと!」

そこに私の意思はないものか。未だ私の左腕から離れない彼の左手を見ながら、どこかの準備室に入った。いや、ここ今日は立ち入り禁止だよ。



「この教室、使用禁止だけど」
「だから人来ないじゃん!いーの!」
「さいですか」

立ち入り禁止とはいえ、普段は生徒が使っている。要は外部の人間が入らないようにということだ。生徒が入る分には問題ない、はず。

「成宮くん、もうちょっとしたら渡り廊下?」
「そ。全力で叫んでくる」
「教室まで響く声でお願いね」
「んー、そこまでしなくても聞こえると思う」
「どういうこと?」
「さっき、ボブに言ってきた。見に来いって」

午前中に写真部へ行くとは聞いていたが、そのことを伝えるためもあったのか。

「まー、本当に来てくれるか微妙だけど」
「……ううん、私も観たいし、私からも声かけてみる」
「ほんと!?」
「成宮くんもあの子に来てほしいんでしょ?」
「……は?」
「随分気にしているみたいだから、ボブちゃんのこと」

実は、ここ最近噂になってきた。『成宮鳴が写真部の2年にちょっかい出している』と。それがどういった感情なのかは分からないけれど、ここまで根回しするくらいなんだから、私も協力してあげよう。

そう思い伝えたら、なぜか、怒られた。



「……っなんで糸ヶ丘はそんなバカなの!?」
「えっ」
「違うじゃん!どう考えてもお前じゃん!なんでボブになるんだよ!」
「だって放課後もよく一緒にいたでしょ?」
「あいつが俺と糸ヶ丘を離そうとするから説得してたんだよ!アホ!」
「アホって」

散々な言われようを受け、ちょっと怯む。でも成宮くんが腕を離してくれないから、後ずさることもできない。

「大体!糸ヶ丘誘ってからボブと行くって知ったんだから、どう考えても糸ヶ丘目的じゃん!分かれよバカ!」
「あ、」


「いいから!絶対来いよ!意地でも説得してこい!」



じゃあね!すごく大きな声で、成宮くんは去っていく。
これはなんとしても、彼女を説得して成宮くんを見に行かないと、更に怒らせることになりそうだ。


(糸ヶ丘先輩!来てくださってありがとうございます!)
(あのー、早速ですがお願いがありまして、)
(……いいですよ)
(えっ分かったの?エスパー?)
(糸ヶ丘先輩のことなら、成宮先輩より詳しいですから)

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