小説 | ナノ


▼ 067

「なんだ鳴、また糸ヶ丘と喧嘩でもしたのか」
「してない!カルロはすぐ糸ヶ丘って言う!」
「糸ヶ丘関連じゃないならどうしたんだよ」
「……糸ヶ丘の後輩」
「糸ヶ丘で合ってんじゃねーか」

糸ヶ丘と指切りをしたその日の放課後、現役生たちが外で練習している間にトレーニングルームへ行こうとしていたら、例のボブに声をかけられた。すっげー怒った表情で。


「――成宮先輩、お時間よろしいですか」


口調こそ随分丁寧だったけど、表情は全然その丁寧さに合っていなかった。絶対これは告白ではないだろうなーって分かっちゃいたけど、だからこそ逆に人通りのあるこんな場所で聞くべきではないと思った。だから野球部寮へ向かう渡り廊下へとボブを連れて行った。




「……で、何言われたんだ?」
「それがちょーーーームカつくんだよ!信じられない!」
「だからなんて言われたんだよ」
「言いたくない!あーでも腹立つから聞いてほしいかも」
「なら聞かせろよ」

思い出しただけで腹立ってくる。あんまりこんなこと言われたって事自体が知られたくないけど、愚痴りたいって気持ちの方が大きかった。カルロは茶化す雰囲気もなく、淡々と尋ねてくる。

だからカルロにだったら相談しちゃおうかな。そうやってちょっと悩んでいたら、俺じゃないやつがボブに言われたセリフを口にした。


「『糸ヶ丘先輩に迷惑をかけるな』ってさ」
「なっ!勝之!?」
「告白でもされているのかと思ったら、喧嘩売られていたんだ?」
「盗み聞きしていたわけ!?」
「寮までの道にいたのが悪い」

走りこんでいたのか、スポーツタオルを首から下げた白河が食堂へやってきた。設置してあるキーパーから1杯汲んですぐ飲んで、そしてまた注いで俺たちの居るテーブルについた。

「確かに鳴は受験直前の糸ヶ丘に絡みすぎだとは思うよね」
「そ、そんな絡んでねーし!」
「まー受験真っ只中の時期に女とイチャついているやついたら腹立つわ」
「へへっ」
「照れんなよ、糸ヶ丘の彼氏にもなってねーのに」
「うっさいな、そのうちなるんだよ」
「……鳴と糸ヶ丘、付き合ってなかったのか」

めずらしく恋愛トークに首を突っ込んできた勝之に、俺もカルロも驚いてしまう。勝之は勝之で、いつもより少しだけ抜けた表情をしていた。ミリ単位の表情差だけど。

「めずらしいじゃん、勝之も俺と糸ヶ丘のこと気になんの?」
「付き合ってもいない女を、即決で選ぶと思わなかった」
「はあ?何言っているのかサッパリなんだけど」

白河の話は、端的で分かりやすい。野球をしている時は勿論、普段でもそれは変わらない。だけど今は端的すぎて何のことを指しているのか分からなかった。しかし、その後付け加えられた説明で俺はすっかり忘れていた出来事を思い出してしまった。



「去年の体育祭」



そういえば、こいつにだけはバレているんだった。




「……!?ま、待ってよそんなこと!!つーかあの時は糸ヶ丘のこと別に好きじゃなかったし!!」
「そうなんだ。なのにあんな、」
「もーーー黙れバカ!!勝之マジで黙れ!!」
「去年って……あー、借り物競争?そういや結局お題教えてもらってねえな」
「教えない!!!ずっと知らなくていい!!!」

いい加減本気で怒りそうになっていると、カルロたちは口を閉ざした。こういうとこ、長年付き合ってきただけのことはある。まあ勝之は大して喋っていないけど。


「どっちにしろ、そのボブの子?に認めてもらわないとって話か」
「つーか別に認めてもらう必要ねーし。他人じゃん」
「でも確かそのボブって、糸ヶ丘追いかけて稲実来たって子だろ?糸ヶ丘はお前よりあっちのが大事なんじゃねーの」
「はあ?初耳なんだけど」
「そうなのか?じゃあ本人から聞いておけ」

中途半端に喋って、カルロは部屋に戻っていった。勝之もいつの間にかいない。進学の勝之はまだしも、カルロも一応勉強しているみたいだ。


(……あー、退屈)

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