小説 | ナノ


▼ 066

「ね、糸ヶ丘は当日どこ回りたい?」
「友だちがステージ発表見たいらしいから、とりあえずそこかな」
「えっ」
「ん?」
「俺と回んないの!?」
「……なぜ?」

いつものように椅子を逆向きにしたまま座り、いつものように俺様思考で喋る成宮くん。記憶違いでなければ、私たちはそんな約束をしていない。

「ごめん、もう他の子たちと約束しちゃった」
「えーっ2日間とも!?
「うーん、シフトないとこは全部」
「じゃあシフト消そう」
「とんでもない発想だね」

そんなこと無理だよ。そう言ったのに成宮くんは納得できないようで。というか去年もこの人は誰とも約束していなかったな。暇な人を誘うと言って。私もあの時は偶然シフトがなくなった(というか、呼び込みに回された)から回れたわけであって、そりゃ文化祭なんて前もって約束しているものだと思う。

「えー……糸ヶ丘は暇していると思ったのに……」
「最後の文化祭なんだから、私だって浮かれるよ」
「えー……裏切られた……」

クラスのシフト表を取り出して、うんうん唸りながら私たちのシフトを睨む成宮くん。そうはいっても、他の人たちも既に回る都合とか考えているから、誰かと変わったりするのも難しいと思う。それをいうけれど、成宮くんは一か所指さして、粘ってくる。


「……この時間だけでもなんとかならない?」


成宮くんの人差し指を目で追えば、1日目午後の、真ん中くらいの時間帯。

「あー……ごめん。そこは後輩の子と回る予定があって」
「誰?そいつ消そう」
「殺し屋みたいな思考回路やめて」
「俺が交渉したらいけるんじゃない?陸上部?」
「ううん、よく応援来てくれている子」
「……もしかして、丸っこい頭の女子?」
「ショートボブね。多分その子で合ってる」

そういえば、この子と成宮くんは、私と成宮くんが知り合ったばかりの頃に会ったことがあるんだっけ。あの頃からずっと同じショートボブだ。

「……ボブ、譲ってくれないかな」
「名前みたいに言うのやめなよ」
「ボブに頼んでみて」
「駄目、あの子忙しいから」
「文化部?」
「写真部。入賞したりしててすごいんだって」
「へー」

あまり興味がなさそうだ。野球部を取りに行ったりもしているのに。

「陸上部の写真展示するって教えてくれたの」
「糸ヶ丘の写真?」
「も、あるのかな」
「じゃあ自分の写真見に行くわけか」
「いやまあ、そうなるけど」

言わんとすることは分かるが、自己愛が強いような言い方をされるのは何となく違和感がある。特に、成宮くんみたいな自分の掲載された雑誌を教室に持ち込んだりしているような人に言われるとより一層だ。

「……糸ヶ丘は俺よりも自分の方が可愛いんだ」
「そんないじけたって無理だから。そもそも彼女と回るのが目的だから」
「じゃあ二人で渡り廊下来たらいいじゃん!名案!」
「渡り廊下?そっか、この時間は絶叫大会か」
「そ!今年も野球部お願い〜!って頼まれてさ、当然俺だよね」


2階の渡り廊下から日頃思っていることを叫ぶこの企画。稲実祭1日目の目玉企画だ。

鼻高々と、文化祭実行委員に頭を下げられた話をする成宮くん。毎年野球部は応援への感謝を伝えるべく誰かは渡り廊下から叫んでいるらしいのだが、いつもキャプテンか4番かエースだという話だ。

「今年は成宮くんなんだ」
「そ!」

そういえば去年は原田先輩だった。応援してくれた生徒や保護者の方々への挨拶は、それはもう拍手喝采だった。私も感動したことは、今も記憶に新しい。成宮くんがきちんとした感謝と伝えるというならば、確かにちょっと見たいかも。

「せっかくなのに、外部参加なくて残念だね」
「ま、校内だけのが言えることもあるけどね〜」
「……一体何を言うつもりなの」
「えへへ、それは内緒〜」
「先生が怒らない内容であることを願っておくよ」

去年は盛況、を通り越して、ちょっとした騒ぎになっている場所もあった。女装した成宮くんもその一か所だ。そのため、今年から生徒とその関係者のみとなってしまった。絶叫大会のある一日目は完全生徒のみ。

「旧棟行く時に使っている、2階の渡り廊下だっけ」
「去年と同じとこだって」
「校内展示見て回るつもりだし、窓からなら見えるかな?」
「ほんと!?絶対見てよ!」
「絶対って約束はできないけど」
「約束!して!」

そういって小指を出す成宮くん。たまに可愛いことするよね。とはいえ、まだ確実に見られると決まったわけでもないので、私はちょっと天邪鬼に人差し指を彼の指に絡めた。



(……とりあえず、後輩には頼んでみるけど)
(土下座してでもOKもらってよね!)

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