小説 | ナノ


▼ 065

「そういえば学祭何するかいつ決めるんだろ」
「焼きそばだよ」

2学期始まってすぐの席替えで前後になった成宮くんが、横向きに座って聞いてくる。振られた話にそう返事をすれば、ぱちくりと大きな目を動かしてこちらをみる。

「えっ俺が取材で抜けている日に決めてたわけ?」
「ううん、私が焼きそばやりたいだけ」
「ざけんな」
「あはは、多分決めるのは今日のLHRじゃないかな?」

去年、原田先輩のクラスが作っていた焼きそばがすごく美味しかった。だから今年も焼きそばを食べたい。それならば私たちのクラスでするのが一番いい。自分たちもすぐ食べられるから。

「シフト分けまでできるといいね」
「もう引退しているんだからどこでもよくない?」
「私は受験あるから前準備あんまり手伝えないし」
「受験なんてみんな同じでしょ」
「私は推薦狙いだからみんなより早いの」

進学校だけあって、みんなレベルの高い大学を目指しているクラスメイトが多い。冬場に本番、という人が大半だ。私は推薦での合格を狙っているので、まさに今が本番だ。面接もあるので、今年も準備に参加することは難しそうである。


「成宮くんは2日目のシフト頼まれるんじゃない?」
「何で?」
「だって今年から1日目は学内生徒だけでしょ」
「あ〜〜去年の俺の人気のせいでね〜〜?」

自慢げに言ってくるのがちょっとアレだけど、間違いではないので頷いてしまう。

去年までの学園祭は、外部からの入場者もチケットさえあればオッケーだった。だけど、野球部の人気が予想以上だったらしく、色々とトラブルもあったらしい。今年の外部来場は2日目だけの、生徒の保護者親戚のみの事前申請という形になった。

とはいえ、1日目よりも人が多いことは確実だ。集客を狙うなら、成宮くんは2日目に入ってくれるように頼まれると思う。


「糸ヶ丘は?」
「1日目は他で忙しい人多いだろうから、1日目に入るかな?」
「ふーん……」
「ああでも焼きそばだったら両方出たいかも」
「ふーーーーん?」
「……何なの、その返事」

聞いているのか何なのか分からない相づちを打ってくれる。そんなこんなで喋っていると、担任の先生がやってきた。やっぱり今からのLHRで学祭の諸々を決めるつもりらしい。


「おーい席つけー、学祭の出し物決めていくぞー」

それだけ言うと、先生は教室隅の椅子に腰かける。毎度のことなので、言われなくともクラス委員長が前に出てきてくれて会議が始まった。


「――では最初に、クラス出店ですが」
「はーい、焼きそばがいい!」

廊下側の一番前の席。つまり、私の前にいる成宮くんが、相変わらず横向きのままそう発言した。彼の大きな声は、クラス中の耳にしっかりと入る。


「成宮は最後まで委員長の聞けよ」
「焼きそばいいじゃん、簡単だし」
「私もさんせー」「俺も」「決定じゃね?」

「えー……他の意見はありませんか」


会議とは何だったのか。まさかの神ならぬ王様の一声があり、わずか1分でクラス出店が決まってしまった。2年生の教室出店と違い、三年生は中庭で屋台を出すので選択肢が限られているとはいえ、まさかこんな早く決まるとは。担任が「じゃあ5分休憩な」と言って教室を出て行った。


「……ねえねえ」

成宮くんの背中をつつく。

「私が焼きそばやりたいって言ったから?」
「べっつにー、雅さんが楽だって言っていたの思い出しただけ」
「素直じゃないなあ」
「本当にそれだけだし!糸ヶ丘の為じゃないし!」

そういうけれど、原田先輩が言っていたくらいで選ばないと思う。焼きそば作る場所って熱いらしいし。散々否定されたから、私のためじゃないってことにするけれど、どっちにしろ焼きそばに決まったのは素直に嬉しい。


「そっか、でも焼きそばに決まって嬉しい。ありがと」
「……糸ヶ丘家は蕎麦好きだもんね」
「焼きそばと蕎麦は別じゃない?どっちも好きだけど」

おじいちゃんも別に食べるのがすごく好きというわけではないと思う。単純に蕎麦を打つのが好きなだけで。そうじゃなければ、打った分自分で消費してほしい。しかし、こうして成宮くんとやりとりする話題にもなっているのでよかった、とも思ってしまっていた。


(じゃあ続いて男装・女装コンテストの出場者決めするぞー)
(はいはーい!勝之がいいと思いまーす)
(な、成宮くん!白河くんが本気の目で睨んでいるよ……!)

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