小説 | ナノ


▼ 061

「ねえカルロ、糸ヶ丘って新入生にも人気あるのかな」
「聞いてみるか?その辺に一年は……っと、赤松発見」

久しぶりに野球部に顔を出していれば、俺を見に来たっぽい新入生の女子がいたので手を振る。キャーキャー言われるのは気分がいい。そう思っていたら、ふと糸ヶ丘の顔が頭に思い浮かんだ。何となくカルロに聞いてみたら、その辺の後輩を呼んでくれる。近くにいた赤松が小走りでやってきた。

「三年の糸ヶ丘って知ってる?」
「陸上部のですか?もちろんです」
「あいつって今も女子から人気あるわけ?」
「人気ですよ、綺麗ですし」
「えー綺麗とか初めて聞いた」

糸ヶ丘が人気だってことは鼻が高いけど、綺麗なんて褒め方しているのが男だったらイヤだな。ちょっとした不満が口調に出る。

「そういえば、成宮先輩って仲いいんですよね」
「へへっそう見える?」
「はい。ジャ〇ーズのノリで、どっち派〜ってよく話題になっています」
「ぷぷっ!糸ヶ丘全然女子扱いされてないじゃん、ウケる〜!」
「ああでも、糸ヶ丘先輩は最近彼氏ができたって噂出ていますよね」


「……は?」


思考が停止する。何それ。

「何それ。誰。どこの男。なんて名前。」
「おい鳴、落ち着け」
「名前まで知りませんけど、野球してるって」
「えっ俺?」
「成宮さんって糸ヶ丘さんと付き合っているんですか!?」
「付き合ってねーし!」
「なんだビックリした。てっきりイケメン大学生と二股かけているのかと」


俺とカルロは思わず顔を見合わせる。


「「……大学生!?」」



***


部屋でストレッチをしていれば、ゴツンと窓に何か当たる音がした。結構にぶい音がしたけど割れておらず安心する。ベランダに転がっているのは、割と大きめの石。こんなことするのは、1人しかいない。

「糸ヶ丘!!!」
「なんて大きさの石投げるのよ」
「ちょっと降りてこい!!」
「なんで」
「いいから!すぐ!」

まだまだ8月も半ば、暑い夜だ。薄着でいたかったが、ジャージを履いてカーディガンを羽織って下まで降りる。玄関をあければ、門にもたれかかる成宮くんがいた。

「どうしたのよ、突然」
「お前、彼氏できたの?」
「できてないけど」
「……じゃあできそうなわけ?」
「何の気配もないわよ」
「なら大学生の男と遊んでいるって噂は何なのさ」

煽られているのかと思ったが、大学生、と聞いてようやく繋がった。

ここ最近、陸上設備の整った大学を色々見て回っていたからだ。オープンキャンパスにも参加はしているのだが、それだけでは分からない普段の練習風景も見たいので、そういう時は人脈を使って平日に見学させてもらっていたりする。きっとそのことだろう。

「前にも言ったじゃん、大学見て回っているって」
「それで男と遊んでいるっての?」
「ないない。卒業した先輩たちに頼んで、練習見せてもらっているだけ」
「男は?」
「微塵もそんな空気はありませんが?」

別に恋人がいなくて憂う気持ちはなかったのだが、どうしても私に男ができたんじゃないかと疑ってくる成宮くんに対して、これだけ何度も否定の言葉を口にしていると、なんだか悲しくなってくる。

「……ならよかった」
「あ、もしかして私が先に恋人できると悔しい?ライバル心?」
「糸ヶ丘と違って俺は異性にモテるんだから勝負にならないでしょ」
「へー、吹奏楽部の後輩とか?」
「それ誰から聞いたの!?」
「えっ何かあるの?」

野球部と吹奏楽部は定番だって、お母さんが言っていた。それを思い出して勘で言ってみたら、まさかの本当に何かあるらしい。なんだ、成宮くんの方こそ何かあるんじゃないか。

「ほほー、成宮くんもファンじゃない人いるんだね」
「どういう意味さ!」
「応援したいのと付き合いたいのは別でしょ?」
「むしろ俺のこと応援していたら彼女になりたい!って思うのが普通でしょ」
「なら吹奏楽部の子は彼女なの?」
「彼女じゃねーし。ちゃんと断ったよ」
「へー」
「……言っておくけど、呼び出されたからちゃんと行ったんだからな」

バツが悪そうな顔をしてそんなことを言う。確か、昔はその場で断るって言っていたなあ。ちゃんと相手の気持ちまで汲めるようになったのかと感心する。

「成宮くんが人の気持ち考えられるようになっている……!」
「糸ヶ丘は相変わらず失礼で成長しないよね!?」
「私は噂しか立たないから」
「確かにね!でも可哀想だから、野球してるイケメン大学生とのデマは否定しておいてあげる!」
「え、」
「じゃーね!俺帰る!」

そう言って、何かに満足した成宮くんは走って寮に向かっていってしまった。野球部のイケメン大学生とのデマとは一体。多分、今の話題からすれば、私が付き合っているどうのという話だろう。もしかして、誰かに見られていたのかもしれない。


「野球部の大学生って……あの人といたの、見られちゃったのかな」

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