小説 | ナノ


▼ 058

「糸ヶ丘〜これあげる!」
「なに?」
「誕生日プレゼントに決まってるじゃん、すぐに分かってよ」
「1カ月の時差があったせいですぐ気付けなくてごめんね」


朝一番に成宮くんが渡してくれた袋は、一カ月前に私がねだった誕生日プレゼント。タオルをリクエストしていて正解だった。いよいよ梅雨もあけて暑くなる時期、ちょうど嬉しい。

「あけていい?」
「むしろ今すぐあけて!」
「そうする」

スポーツタオルにしては、随分コンパクトな気がする。包装の問題かな。成宮くんが渡してくれた袋は見慣れないものだったので、一体どのくらいの金額なのかも予想がつかない。中身を取り出し、包装を解いていけば――


「……扇子?」
「そう!センス!暑いからちょうどいいでしょ」
「うん……ちょうどいいけど、タオルは?」
「タオルなんていっぱいあるからいいかなーって」
「あ、うん、ありがとう」
「……なーんかリアクション微妙じゃない?」
「そんなことないって、嬉しいよ。ありがとう」

確かに素敵なプレゼントであることのは事実だ。扇の部分もシックな赤色でモダンなデザイン、骨が白なのがかっこいい。シンプルで、使いやすい。しかし、完全にタオルをもらえるものかと思い込んでいたせいで、うまくリアクションが取れなかった。

「絶対嘘だ!だって俺プレゼント選ぶの下手だって姉ちゃんに言われるし!」
「確かにチョイスはずれているけど、物自体はすごく良い物だよ。ただ、私の思っていたのと違っただけで」
「つまり100点満点じゃないわけじゃん……」
「いや、私がタオルほしいって言わなきゃよかったね、ごめん」
「いいよ……俺がサプライズしたがるのが間違ってただけだし」
「でも扇子持ってないからこれからバンバン使うから、ね?」
「……うん、めっちゃ使って」
「めっちゃ使うよ」

どうしよう。成宮くんが落ち込んでしまった。てっきり怒ってくるかと思ったのに、こうなると逆にどうしていいのか困ってしまう。わざわざ忙しい中買いに行ってくれたのに、なんて失礼なことを。とはいえ、使うと言っても校舎内は冷房が効いているし、部活中は使えないし、そもそも成宮くんも見ていないし。

「(あ、そうだ)」


***


「カルロ何してんの」
「鳴も座れ、陸上部テレビに出てるぞ」
「えっなんで?」
「そりゃ前年度のクイーンがいるからだろ」
「じゃあ糸ヶ丘の特集!?」
「どっちかっていうと、部全体な感じ?お、部室こんな感じなんだな」

寮のテレビにみんなが集まっているので近づいていけば、ローカル番組で稲実の陸上部が映るらしい。ちょうど女子陸上部が全員で部室にいる様子が映った。見覚えのある顔もちらほらいる。俺たち野球部の取材とは違い、自由にピースしたり騒いだりしている。すげー浮かれているな。

部活終わりに集まっている様子が撮られているようで、タオルを首にかけたり、手持ちの扇風機を使ったりしている人も多い。

『今時は個人で扇風機を持っているんですねー』
『はい!雑貨屋にも安く売っているので、みんな持っています!』
『糸ヶ丘は流行りに疎いので、今だにタオルと扇子ですけど』
『うるさいなー、別にいいでしょ』
『いやいや、かっこいいデザインで、クイーンにお似合いですよ!』

『ありがとうございます。お気に入りの物なんです』



「普通にクイーンって呼ばれてんの、ちょっと面白いな……鳴?どした?」
「な、なんでもない!」
「何でもない顔してないぞ。今なんか映った?ブラジャー?」
「んなもん映るわけねーだろ!バカルロ!」

そういえば、糸ヶ丘に今日寮にいるかを聞かれたんだった。いるといえば来てくれるのかと思ったら「行くわけないでしょ」と言われたのですっかり忘れていたけど、もしかしたらこれを見てほしかったのかもしれない。ほんともう、可愛いことすんのやめてよね。



(おはようクイーンさん、お似合いの扇子ですこと!)
(おはよう成宮くん、素敵なプリンス様からもらったの)
(へ、へー!)
(……だから照れるくらいなら吹っ掛けないでよ)

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