小説 | ナノ


▼ 052

「糸ヶ丘来るの早くない?」
「あ、成宮くんおはよ」
「体育祭だから朝練ないのに、何してんの?」
「女子みんなでヘアアレンジしようって話になったの」

体育祭、最終学年だし思いっきり楽しもう。
そう決めた私たちのクラス女子は、全員で髪型を変えようと話していた。よって当日の今日、毎朝のランニングだけ済ませた私は、朝練もないのにいつも通りの早い時間から通学していた。成宮くんはジャージ姿でバットを持っているので、朝から自主練をしていた様子だ。

「糸ヶ丘はそういう女子っぽいこと苦手そう」
「これでも編み込みは得意なんだよ」
「へー意外」
「成宮くんもやってあげようか?」
「いらない、頭痛くなるじゃん」
「そう?じゃあまた後で」

そう言って私たちは一旦分かれた。





「……なんでカルロがこっちの教室にいるの?」
「よう鳴、かっけーだろ」
「サッカー選手っぽいね」
「神谷くん動かないで」
「へい」

いつもと違い、SHRもないからか、成宮くんはギリギリに教室へやってきた。他のクラスメイトたちは各々髪を巻いたりくくったり、あとは背中にガムテープで文字を書いたりしている。

「つーかあいつらなんでガムテープ持っているわけ?」
「背中に貼るの、成宮くん去年やっている人みてない?」
「あー、なんかやっているヤツいた気もする」

髪型が完成したクラスメイトは、思い思いのデザインを背中に作っている。二人ペアでハートを作ったり、どーんと名前を書いたり。私はといえば、通りかかった神谷くんに何故か編み込みをしているところだ。


「神谷くん、スプレー振るけど、かゆいとかあったら言ってね」
「もっと美容師っぽく言ってみて」
「……かゆいとことはございませんかー」
「背中」
「それは自分で掻いて」

相変わらずの茶番である。久しぶりにこういうやり取りをした。やっぱりクラスが別だと交流は減ってしまう。ケラケラ笑いながら去年のノリで会話をしていれば、成宮くんも混ざってきた。

「……もういいんじゃない?」
「えー駄目だよ。ちゃんと固めなきゃ走っている時に崩れちゃう」
「どーせぐっちゃぐちゃにするよカルロは」
「しねえよ」
「はい完成。お礼に100m走で頑張らないでね」
「サンキュ。お礼にすっげー頑張って走ってやるよ」

そう言って去っていく神谷くん。同じクラスの時はあんなにも心強かったのに、敵クラスになると脅威だなあ。とはいえ、神谷くんと喋るのも久しぶりだ。クラスが変わってもこうして会話できるのは楽しい。一通り女子の髪型をやり終えて手持ち無沙汰にしていた甲斐があったと思う。

「……ねえ糸ヶ丘」
「何?」
「俺もやって」
「頭痛くなるから嫌なんじゃないの?」
「やっぱやる」

どかっと座る成宮くん。彼の長さだと編む間も結構引っ張ってしまいそうだし、本当にいいのだろうか。当の本人は完全に託す気持ちのようで、置いてあったガムテープで手遊びしている。よくよくみれば、あまり編めるほどの長さもないので、くるりと捻ってピンで止めるくらいになるかな。考えながら、色素の薄い髪を触る。

「……やっぱ難しい?」
「あ、ごめん。思ったより柔らかかったから、つい」
「もー、人の頭撫でて放心しないでよ」
「ごめんごめん、じゃあやっていくね」

サイドの長さを確認して、試しにくるりと指に巻き付けてみる。うん、何とかいけそうだ。黒いピンだと味気ないから、せっかくだしカラーピンにしよう。成宮くんの正面に立って色々考えながら、ねじっては止め、ねじっては止めていく。

「頭痛くない?」
「だいじょーぶ!」
「ねえ、前髪はそれにしてほしい」
「それ?」
「糸ヶ丘と同じやつ」
「ああ、バッテンでピン止めね」
「うん、頭痛くならなさそうだし」

それが何なのか分からなくて首を傾げたら、私がやっているのと同じ髪型らしい。簡単だからその申し出はありがたかった。色違いのヘアピンを、ざくざく刺していく。

「あともう少しだから」
「丁寧にやってよねー」
「それは頑張るけど、」

いかんせん、時間がない。ちらりと時計を見ればそろそろ集合時間だ。私は髪もやってもらい、背中にガムテープも貼ってもらった。ちなみにデザインはこのクラスの組数だ。他の友達は「3」「年」「組」と貼っている。あとで並んで写真を撮らなくては。

「よし!ギリギリ完成!」
「サーンキュ!」
「成宮くんも早く行こ」
「ねー、俺も背中にガムテープ貼りたい!」
「えっ今から!?」
「何でもいいから貼って!」

他のクラスメイトたちは、ぞろぞろと教室を後にする。残るは私たち2人だけ。
なんで早く来なかったんだ。そう言いたかったが、自主練をしていた彼にそんなこと、口が裂けても言えなかった。ああでも私はデザインを考えたりできないから、急に言われると思いつかない。

「成宮くん何か書いてほしいのある?」
「ない!糸ヶ丘のイメージでいいよ」
「成宮くんのイメージって言われても……あ、」

ビーッと、ガムテープを長く切る。それを真ん中にドンと貼る。縦1本。やっぱりこれだろう。

背番号、1番。


「……やっぱり、成宮くんはこれだよね」
「ふふん、分かってんじゃん」
「げ、そろそろ時間まずい」
「ほら!走った走った!」
「もう!分かっているってば!」

ガムテープを置いて、成宮くんに手を引かれて走り始める。去年もこんなことしたっけな。クラスの待機場所までいけば、ギリギリになったことを責めるような視線の白河くんがいて、思わずデジャヴを感じてしまった。



(っ!?なんで糸ヶ丘はショートの番号つけてんの!?)
(ショート? ああ、これ3年6組の「6」だよ)
(今すぐ剥がせよバカ!)
(えっやだよ……ちょっ、体操着引っ張らないで!)

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