小説 | ナノ


▼ 051

「糸ヶ丘!今年もよろしく!」
「成宮くんよろしく。あ、白河くんはじめてだね」
「そうだね」
「今更ですが糸ヶ丘かのえです。よろしく」
「よろしく」
「よろしくしなくていいよ!」
「するよ、成宮くん何なの」

本当に先生へ掛け合ったのかは定かではないが、本当に成宮くんと同じクラスになってしまった。野球部のレギュラーは、彼と白河くん。さっそく後ろの席だった白河くんに声をかければ、意外にも素直に挨拶を返してくれた。成宮くんが「勝之は愛想ないし態度悪いから」と言っていたことがあったので怯えていたが、やはり成宮くんの話を信じるべきではないな。

「神谷くんは隣のクラスだね、残念」
「俺がいるのに残念っておかしいでしょ」
「成宮くんひとりで私の幸せは支えきれないよ」
「支えられるよ!俺さえいればこのクラスは最高のクラスになるし!」

自分がクラスの中心であることを自負したこの発言に、周囲から拍手や口笛が飛ぶ。

「いいぞー成宮ー!」
「鳴ちゃん今年も頑張ってねー!」
「イェーみんなよろしくー!」

そこらかしこから、成宮くんへの声援が沸いた。既にクラスの空気に馴染めない予感がして怖くなってくる。なんだろうこの、一致団結というか、テンションの高いノリは。苦手じゃないけど、得意でもない。何となく周囲を見まわしてみれば、後ろの席の白河くんは、この盛り上がりに一切乗る気配もなく座っていた。

「……そういえば、白河くんって丸亀シニアだったんだよね」
「そうだけど」
「私のおじいちゃん、そこでボランティアしているんだ」
「ボランティアじゃなくて監督でしょ。鳴から聞いた」
「そうそれ、監督。でもボランティアなことには変わりないし」
「無償って点だけならそうかもね」
「ちょっと!二人だけで話すのやめてくれない!?」

両手でピースを作り、クラス中にアピールする成宮くんは放って白河くんと話していれば、また成宮くんが割り込んでくる。みんなと喋りたいのか白河くんと喋りたいのか、どっちかにしてほしい。

「ちなみに俺は糸ヶ丘監督の蕎麦も食べたことあるもんね〜!」
「シニアのメンバーはみんな食べているよ」
「えっそうなの!?」
「年末年始の恒例なんでしょ?糸ヶ丘監督の蕎麦打ち」
「ほんと……ほんとごめんね白河くん……押し付けられていたよね……」

まさかボランティア先の教え子にも配り歩いているとは思わなかった。てっきり同じボランティアのおじさんたちだけだと思っていたのに。押しつけがましいことをする祖父にショックを受けていると、白河くんが「不味くないから気にしなくていいよ」と言ってくれる。多分、白河くんは嘘をつかない人だと思うので、本当のことなんだろう。あと”美味しい”って言わないあたりも、お世辞じゃない感じがする。

「ねー、二人で盛り上がるのやめてくれない?」
「成宮くんには盛り上がっているように見えるの?」
「白河はこれ以上のテンションを見せないよ」
「鳴と一緒にするな」

確かに、成宮くんほどの浮き沈みをする人もそういない。しかし、白河くんほど落ち着いている人もなかなかにいなさそうだ。せっかく最後の1年、何かの縁だし、成宮くん繋がりで関わることもあるだろうし、仲良くなれたらいいな。



(白河くんって趣味ある?)
(別に)
(じゃあ好きな食べ物とかは?)
(特にない)
(えー、ならさならさ、)
(ねえ!俺のこと無視しないでってば!)

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