小説 | ナノ


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「もしかして、糸ヶ丘って進学コース……?」
「ううん、練習時間勿体ないから普通コースだよ」
「だ、だよねー!」

もはや当たり前になってしまった、神谷くんの席を占領しての昼休み、成宮くんがそんなことを聞いてきた。そういえばコース希望の提出したんだった。
しかし、普通コースで当然と言われるのはなんだか違和感がある。どういうつもりだろう。進学できなさそうって意味なのだろうか。

「成宮くんは?」
「俺も普通コース、そもそも進学しないし」
「プロ志望だっけ。声かからなかったらどうするの?」
「俺にかけなくて誰にかけるのさ」
「自信たっぷりで羨ましい」

あの神谷くんですら「野球で食っていけたら」と言いつつも勉強を頑張っている。だけど、成宮くんに関しては本当に最低限の宿題だけをやっている気配しかない。クラスや寮では勉強したりしているのかとも思ったが、これだけ言い切るなら本当に進学は一切考えていないのだろう。

「つーか糸ヶ丘も大学から声かかるでしょ?」
「行きたい大学から声かからなかったら受験だからなあ」

できれば推薦、無理なら受験。この差は随分と大きい。しかし、進学コースでなくとも勉強はできるのだから、自分で頑張ればなんとかなる。と、信じている。

「糸ヶ丘と同じクラスになったりするのかなー同じクラスかー仕方ないなー」
「いや、それはないと思うけど」
「なんで?」
「大会で授業抜けること多いから、私あんまり野球部レギュラーと同じクラスにならないんだよね」
「なんで!?」
「だってごっそり抜けると不味いでしょ」
「糸ヶ丘一人いようがいまいが変わんないんだから、気にしなくてじゃん!」
「慰めたいのか蔑みたいのかどっちかにして」

去年だって神谷くんしか一軍メンバーはいなかったらしい。私には何軍と言われても分からないのだが、試合に出ていくのは一軍が中心とのことだ。

「なんだー……糸ヶ丘と別のクラスかー……」
「……もしかして、同じクラスがよかった?」
「べ、別にそんなことないし」
「結局昼休みに遊びに来てくれそうだもんね、成宮くんは」
「糸ヶ丘が寂しそうだからね!仕方なくね!」
「それは要らぬ気遣いをありがとう」

クラスが離れていても、成宮くんとは随分会話をしている気がする。同じクラスになるとどれだけ喋ることになるのだろうか。そう考えると離れたいという気持ちも多少湧いてくる。というか、成宮くんはいつまで私に絡み続けるのだろうか。



「……いいこと思いついた!」
「どうしたの」
「俺が糸ヶ丘と同じクラスがいいって先生に言ったらなるんじゃない?」
「世界の中心という自負がすごい」

名案、といった風にそんなことを言ってのける。

「だってエース様だよ?先生も気使うでしょ?」
「じゃあ私が成宮くんとクラス離してって言ったら離してもらえるかな」
「えっ……同じクラス嫌なの」
「ごめん嘘だって。本気で落ち込まないでよ」
「っ落ち込んでないし!まあ糸ヶ丘が言っても俺の気持ちが優先されるけど!」
「あはは、やってみる?」
「負けねーし!」

まさかそんなふざけた約束、本気にするだなんて思っていなかった。

成宮くんが世界の中心だったか否かは分からないけれど、確かに成宮くんの思った通りになったということと、成宮くんが本当に先生に頼みに行っていたと知るのは一カ月後のことである。



(糸ヶ丘ー!俺の勝ち!)
(……っ本当に頼んだの!?)

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