小説 | ナノ


▼ 047

「そういえば、糸ヶ丘ってお返し何にするの」
「私?色々買って組み合わせる予定」
「面倒なことするねー」

バレンタインの翌週、もうそんなことを聞かれた。随分とはやいと思ったが、確かに私も来週には買い出しに行くつもりだ。ホワイトデーなんてあっという間に来てしまう。ちなみに成宮くんが今座っている席の持ち主・神谷くんは、マカロンを渡した段階で何がほしいか聞いてきた。足だけでなく行動まではやい。

「だって金額と好み考えると一律にできないもの」
「もらった物がいくらかチェックしてるわけ?糸ヶ丘ってばゲンキン」
「そうね、だから成宮くんには期待しているんだけどなー」
「……」

茶化してそういってみれば、ぐっと言葉を詰まらせた。

「……糸ヶ丘に相談なんだけどさ、」
「ん?」
「女子って何が好きだと思う?」
「人によるんじゃない? 具体的に相手とかいるの?」
「誰とは言わないけど、陸上部で高跳び得意な同級生」
「……それはまた難しいね」

どう考えても私だ。ちょっと面白かったので乗っかってあげることにする。

「成宮くんの中で候補はある?」
「好きな物知らないし、食べ物かなって」
「それはよい考えだと思う」
「花より団子なんだよね、そいつ」
「……わかんないよ、花束貰って泣いちゃうかも」
「いーや、絶対ホールケーキのが喜ぶ」
「ホールケーキじゃ重いよ、でもケーキならチョコレートがいいと思う」
「ホールの?」
「ホールへのこだわり何!?一切れでいいよ」
「ざ・ぴーすあっとけーきってやつね」
「言いたいことは伝わるけど文法おかしいよ」
「じゃあ糸ヶ丘が言ってみて」

リクエストを受けたのでご期待通り言ってみる。A piece of cake。中学一年生以来使ったことないな、こんな英文。

「発音アメリカ人じゃん……!」
「えへへありがと、英語好きなんだ」
「勉強好きってすごいな」
「勉強っていっても英語だけね」
「海外でも行くつもりなの?」
「それは……まあ、できれば?」

このまま陸上を続けていくなら、国外の大会も目指したいっていう気持ちが、ないこともない。アジア大会でも英語で通じる国はたくさんあるし、せっかく行くなら言葉を覚えていきたい。

「糸ヶ丘の将来の夢って何?」
「夢って聞かれると難しい」
「大学進学して、そのあとは?」
「うーん、具体的にはあんまり」
「もっとちゃんと考えなきゃ、進学先も大事でしょ?」
「成宮くんに正論言われてる……」
「失礼極まりないね!?」

正直いうと、大学も設備と偏差値くらいしか見ていない。親にも同じことを言われてはいるのだが、どうしても具体的な将来が見えてこないのだ。あーあ、私も成宮くんみたいにしっかり将来考えられる人になりたい。




(今はバレンタインのお返しに美味しいもの貰うことしか考えられないかな)
(欲望に素直なのはいいと思うよ)
(だよね。野球部のエース様はどんなお返しくれるんだろうなー)
(ふふん、楽しみにしておいてよ)

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -