小説 | ナノ


▼ 046

「糸ヶ丘っ!偶然じゃん、おはよ!」
「あ、成宮くん。ハッピーバレンタイン!」

2月14日。俺は下駄箱に隠れて糸ヶ丘を待っていた。

絶対俺の分もあるとは思っていたけど、自分から話題にするのもなあ。そう思ったから自然と出くわした振りをして挨拶をすれば、やっぱり準備してくれていた。へへん。

「結構持ってんじゃん」
「もらったのと、配る用とあるからね」
「へー……」

糸ヶ丘が持っている袋は3つ。利き手に2つと、利き手じゃない方のでかいトートバッグはもらった用かな。既に結構入っている。さーて、俺のはどこから出てくるのかな。わくわくしながら待っていれば、緑のリボンの山をごそごそしている。もしや、俺のだけ特別なんじゃ……?

「じゃ、よい一日を」


***



「ねえカルロ!糸ヶ丘は!?」
「引退した先輩に配るって出て行ったぞ」
「ちょうどよかった、ねえ聞いてくれる!?」
「? 俺でいいのか、めずらしいな」

だって愚痴りたいんだもん。糸ヶ丘の席に座って横を向く。カルロはかったるそうな顔をした。絶対めんどうだって思っているな、コイツ。

「カルロは糸ヶ丘からもらった?」
「クラス全員に配っていたからな」
「全員?全員にクッキー配ってんの?」
「いや、クッキーは貰ってないけど。鳴はクッキーだったのか?」
「なんで……なんで俺だけクッキーなんだよ……っ!」
「いいだろどっちでも、鳴はどうせ腐らせるほどチョコ貰うんだし」

カルロの言う通り、確かに実際去年は食べきれなかった分もあった。手作りとかは怖くて食べなかったっていうのもあるんだけどさ。でも、去年だってクッキーを渡してきた子なんていなかった。

「……カルロは疎いから知らないだろうけど、バレンタインは贈るもので意味が変わるんだよ」
「へえ詳しいな。で、クッキーは?」

簡単に聞いてくれるカルロ。しかし、クッキーに込められた意味は重い。


「……”友だちでいましょう”」
「……ぶふっ」
「笑うなよ!!死活問題だぞ!!」

昔からモテモテだった俺は、渡す物で意味が変わると聞いてからお返しには気を使うようになった。だから似たような状況の糸ヶ丘も、きっとそういうことを知っているはず。つーか、女子だし知っているはず。

「カップケーキとかマカロンとか、そこまでは求めちゃいないけどさあ」
「それも意味あるのか」
「”特別な存在”だってさ、」
「……へえ。花言葉みたいだな」
「花なんて渡す機会ないからどうでもいいよ。それよりクッキーだよ!」

「クッキーがどうかした?」


振り返れば、糸ヶ丘がいた。配りに行くと行っていたのに、手に持つ袋は色んな包装でいっぱいだ。先輩たちからその場でお返しをもらったり、すれ違った後輩がくれたらしい。机にかかっている分もあるのに、どれだけもらうつもりなんだ。

「何でもないしー」
「そう?あ、クッキーといえば、原田先輩からのクッキーもらったよ」
「なんで雅さん?つーか雅さん学校いなくない?プロ寮に住んでいるじゃん」

いもしない相手にどうやって渡したんだ。そう尋ねてみたら、いちから説明してくれる。

「そうなの、私それ知らなくてさ。年明け前にサインもらったからお礼にバレンタイン渡しますねーって言ったんだけど、学校来ないって言われちゃって。だから1月のうちに渡していました」

「ならそのお返しは?」
「クラスメイトの人に託してくれていたみたいで、今受け取ったの」

ホワイトデーの時は卒業しているからって、先に準備しくれていたみたい。嬉しいなあ。なんて言いながら糸ヶ丘が雅さんからもらったらしいクッキー見せてくる。けらけら笑って、なんだよ、そんな嬉しそうにして。

「……でも友だち宣言じゃん」
「友だち?あ、渡す物によって意味があるーって話?」
「残念だったねー、せっかくプロ行く人に渡せたのに」
「んー、あんまり意味とか気にしたことないなあ」
「強がらなくてもいいんだよ?」
「私のこと考えて選んでくれたなら何でも嬉しいよ」

そう言ってのける糸ヶ丘。カルロはニヤニヤとして俺を見る。

「……やっぱ糸ヶ丘と鳴じゃ人間の出来が違うな」
「何の話?」
「いや、こっちの話」

「あ、そういえば成宮くんのクッキーちょっと高いから。お返し待ってるよ」
「はあ?何そのアピール」
「甘いの好きじゃないよね?だから成宮くんの分は別で買いに行ったの」

糸ヶ丘は俺の前にしゃがみ込んで、先ほどもらったお菓子たちを机に広げた。そして付箋に色んな名前を書いて、ぺたぺたと貼っていく。

「何してるの」
「誰からもらったか分からなくなるから、覚えている間に付箋貼ろうかと」
「ふーん……ねえ、俺にも一枚ちょうだい」
「いいよ。ペンいる?」
「要らない。でも糸ヶ丘の名前書いて」

同じことをするつもりだと理解した糸ヶ丘は、ちょっと大きめの付箋に変えて、自分の名前を書いた。あと、『お返し楽しみにしてます』なんて一文と、最後にハートもつけて。

こういうことするの本当やめてよね、好きって言っちゃいそうになるから。



(神谷くんも私があげたラッピングに付箋つける?)
(覚えているからいらねえ)
(マカロンあげる子、きっと他にいないもんね)
(……ちょっと待って。マカロンってどういうこと?)
(神谷くんが「変わったもんほしい」っていうからマカロンあげたの)
(いや、他意はないぞ?本当だからな?鳴、聞いてるか?)
(……カルロ、今日の練習で覚えとけよ)

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