小説 | ナノ


▼ 037

「糸ヶ丘ー!……またいない」
「糸ヶ丘なら呼び出されてどっか行ったぞ」
「えー何やらかしたの」

教室に戻ってきたら、後ろの扉に成宮くんがもたれかかっていた。顔だけ教室の中にいれて、覗き込んでいる。もういっそのこと入ったらいいのに。そう思っていたら、そのままの体勢で私の名前を呼んだ。気付いていなさそうだから黙っていれば、神谷くんを見つけたようで会話を進め始める。

「陸上部の先輩だってさ、告白じゃねーの」
「はー?あんなやつに告白する男とかいるわけ?」
「失礼ね。告白じゃないのは正しいけど」
「糸ヶ丘!遅い!」

先輩に呼び出されて部室棟までわざわざ行けば、まあなんというか、彼女とのデートコースの相談だった。そういうのは恋人のいない私に聞くべきではない。大した答えも出せなかったし、そういうのは彼氏持ちの人に聞いてほしかった。

「今更だけど、成宮くんとは約束していないから、約束ある人を優先するよ」
「じゃあ明日からはずーっとお昼は俺と食べる。約束ね」
「一方的すぎませんか」
「いいじゃん!駄目なの?」
「むしろ成宮くんは毎日私とごはん食べるつもりなの?」
「駄目なの?」
「駄目というか、予定入ることあるから難しいと言いますか……」

最近、成宮くんはほぼ毎日のようにこちらのクラスに顔を出している。
神谷くんと喋っているだけならいいのだけれど、私に話す用事もあるようで、私がいないと怒ってきたりもする。とはいえ、基本的に成宮くんの用事は大した内容ではないので私も無理に教室で待っていてあげようと思ってもいない。

「成宮くんの方こそ、呼び出しあったりするでしょ」
「俺はないよ、呼び出しされたらその場で聞いちゃうし」
「えぇー……」
「だって付き合う気ないのに期待させても可哀想じゃん」
「でも、気持ちだけでも聞いてほしいんじゃ」

私は告白したことがないから、そうする人の気持ちは分からない。でもわざわざ本人に伝えようとするのは、ちゃんと聞いてほしいからじゃないのかな。

「聞いたところで『ごめんねありがと』って言うだけだし。それなら人のいない放課後の教室だろうが、全校生徒の前だろうが変わらないでしょ」

成宮くんの言いたいことは分かった。でも納得はできない。告白する女の子たちの気持ちを考えると複雑な感情である。それが顔に出ていたのか、成宮くんは更に言葉を続けた。

「……言っておくけど、向こうが『それじゃ嫌だ二人きりがいい』って言うならちゃんと行ってあげているからね。それでも部活前とかだけど。時間かけたくないし」
「ああ、それならちょっとは安心した」
「そもそも、本気で俺と付き合えると思って告白してくる人、もう今じゃほとんどいないから」
「えっそうなの」

意外だ。数カ月前に甲子園で準優勝して、顔が広まってからはずっと人気が上がり続けていると思っていた。そもそも、あの文化祭からファンは増えていそうなのに。

「この成宮鳴だよ?同じ学校ってだけで付き合えるわけないじゃん」
「そうなんだ」
「ちゃんと仲良くなって、そんでいいなって思わないとヤダ。一目惚れでは付き合わない」
「……成宮くんって、付き合う理想があったんだね」
「どういう意味?」
「恋人いらないから断っているんだと思ってた」

そう尋ねてみたら、ちょっと眉間を狭める。これはもしや、あまり触れてほしくなかったところなのかもしれない。でも話題を振ってきたのは向こうだし、もうちょっと聞いてもいいかな。どうかな。

「逆に聞くけど、糸ヶ丘はそういう相手ないの?」
「私? 今は全然恋愛していないからなー」
「近くにいいなって人は?」
「うーんないかな……」
「ほんと?よく考えて?部活だけじゃなくてもいいんだよ?」
「そう言われても……あ、でも」

身近な人。そう聞いて成宮くんを見る。



「成宮くんに告白はしたくないかな」


「……は?」
「ぶふっ」

私の発言を受けて、成宮くんから何とも言えないマヌケな声がもれた。そして、話だけ聞いていた神谷くんから笑いももれた。

「糸ヶ丘!どういう意味!?あとカルロも盗み聞きしてんじゃねーよ!!」
「だってみんなの前で告白なんて私は絶対できないし」
「そんなことで俺のこと諦めんなよ!」

諦める云々以前に、そもそも成宮くんに告白する予定などない。だというのに、成宮くんはこんな仮定の話でも怒り始めた。

「逆に聞くけど、成宮くん自身は全校生徒の前で告白する度胸あるの?」
「あるっての!つーか頼まれたら人いないとこ行くって言っているじゃん!」
「でも成宮くんは私が呼び出してもその場で聞くって言いそう……」
「もー言わないってば!ちゃんと誰もいないとこで聞くってば!」
「本当に?」
「本当に!何なら寮にでも連れて行くし!」
「そこまで連れ込むなよ」

神谷くんの正論が挟まったところで予鈴が鳴る。いつも以上にぎゃーぎゃー騒いでいた成宮くんは、いつも以上にこのクラスに残って粘っていた。


(俺はいつでも呼び出されたら行くぞ)
(きゃー神谷くん優しい!告白はしないけど)
(ははっ鳴に勝った)
(勝つな!負けろ!)
(成宮くんは早くクラス戻りなさい)

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