小説 | ナノ


▼ 035

「よっ!お姫様」
「いやいや、王子様だろ」
「うっさいな!もう黙ってろ!」


学祭が終わってから、こうして俺に絡んでくるやつが多くなった。マジでウザイ。

あの後の慌ただしさはすごかった。糸ヶ丘が怪我してるかもっていうのはバレると不味いかなーって思ったから、俺がお姫様だっこする側になったのはテキトーに言い訳して、全然宣伝していなかったとクラスで怒られ、野球部ではさっきみたいな茶化しがめちゃくちゃ流行った。というか、現在進行形でまだ流行っている。

結局「足を挫いた」と糸ヶ丘が自ら色んな人に説明したから怪我は即バレた。そして「女子をかばうために、理由を隠してあんなことを」ということで、俺の人気はうなぎ登りだ。みんなからチヤホヤされるのは好きだけど、理由が理由なだけに、あんまり嬉しくない。

対して、糸ヶ丘はというと――。



「……本っ当にごめんなさい」
「別にいいって」

学祭の振替休日が終わった翌日、朝練が終わって下駄箱まで歩いていたら、紙袋を持った糸ヶ丘に声をかけられた。どうやら謝罪のカステラだそうだ。カステラて、高校生の差し入れじゃないだろ。すごい角度で頭を下げるから、もういいって言えばしょげた顔を上げる。なんだこの弱っている生き物は、本当に糸ヶ丘なのか。

「でも成宮くんも肩大事にしてるのに」
「はー?糸ヶ丘一人持ち上げるなんて余裕ですけどー?」
「でも……迷惑かけちゃったし……」

「ていうか、怪我は大丈夫なの?」

どうやら捻挫なんかはしていないっぽい。ただ、念のため3日間は走り込みなしだそうだ。上半身の筋トレで過ごすと言っていた。

「おかげ様で」
「ならいいけど。無茶しないでよね」
「本当すみません」
「なんで謝るの、こういう時は感謝でしょ!」
「……うん、ありがとう」

眉を下げて、下手っぴな笑顔を作ってお礼を言う糸ヶ丘。なんだか調子狂うなー。


***


「つまりさあ、糸ヶ丘がすっげー落ち込んでて喋りにくいんだよね」
「なら喋らなきゃいいだろ」
「極論!カルロは0か100しかないの?」
「鳴にそんなこと言われるなんてな……」

その日の夜、夕飯の時間に相談してみたのに、カルロからはまともな意見が出てこなかった。まったく、使えないな。

「ねー白河ー、何か案ない?」
「知るか。放っておけば」
「ひっでー!ちょっとは考えてくれてもいいじゃん!」
「ああいう根っから真面目タイプは怒られ慣れてないだけだろ。放っておくのがいい」
「……それは一理ある」

なるほど。確かに糸ヶ丘って怒られているところ見たことない。生活態度いいっぽいから先生から注意されることもないだろうし、部活でも糸ヶ丘よりできる人あんまいないから指摘できる人がそもそもいなさそう。

「じゃあいつも通りにしよっと!」
「それがいい、お前はどうせ考えてもできないだろうし」
「考えた結果がこれなんだよ!」
「つーか、そもそも糸ヶ丘は落ち込んでないだろ」
「はー?カルロ鈍感すぎない?」
「クラスではいつも通りだった気がしたけど」

言われて思わず動きが止まる。
そんなわけないと言いたかったけど、勘のいいカルロで、糸ヶ丘と同じクラスのカルロの意見だ。蔑ろにできるほど、糸ヶ丘に関して余裕があるわけでもない。

「何それ、じゃあ俺の勘違いだったのかな」
「いつもと違うのはそうだけど……あー面倒だな、明日直接聞いてみろ」
「突然投げ出さないでよ!」
「ていうか鳴は早くご飯食べなよ」
「食べるし!そんでメールする!」

明日なんて待ってられない。そう思ってメールを入れたけど、なんだかはぐらかされた。なんだよ、大丈夫だよありがとうって。何も大丈夫じゃない。

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