小説 | ナノ


▼ 034

「いやー……本当に優勝しちゃうとは」
「流石俺様!」
「スカート短くしないとね」
「思ったんだけどさあ……これ、どうやって長さ変えればいい?」

あんな宣言しただけあって、成宮くんは女装コンテストで優勝した。あと私も、男装コンテストの方で。

「うーん、ゴムのベルト持っている女子に借りて調整しようか」
「糸ヶ丘も女子じゃん」
「私はゴムのベルト持ってない」
「女子なのに」
「悪うございましたね」

よくよく考えたら、成宮くんの着ている服装はワンピースだ。折り曲げたりで調整はできない。なのでベルトを使って無理やり10cm短くするしかなさそうだ。

私たち2人がいるのは、午前中に集まっていたのと同じ、体育館の舞台裏。今は学園祭の優秀賞やらなにやらの発表をしているところだ。これが終わったらコンテスト優勝者の登壇と、記念撮影が始まる。私はヒールに履き替えて、成宮くんのワンピースを調整してと、準備を進める。

「あ、これ演劇部のだね。委員長借りてもいい?」
「いいわよ」
「糸ヶ丘ーつけてー」
「フリフリだからやりにくいな……後ろ回るね」
「え、ちょっと!どこ触ってんのセクハラ!」
「仕方ないじゃない、やりにくいんだから」
「やだー!糸ヶ丘に襲われるー!カルロ助けてー!」
「お前ら静かにしろよ」

私たちのクラスも接戦の末、クラス賞を頂いた。神谷くんと委員長が代表としてきている。バッチリ着付をした神谷くんと、裏方仕事でジャージを着ている委員長というアンバランスさがちょっと面白い。まあ私と成宮くんの不自然さよりかはマシだろうけれど。

「よし、これで大丈夫」
「思った以上に……太もも出るなあ」
「あはは、今更だよ。でもこの方が持ちやすそうだし」
「持つって何を?」
「成宮くんを」
「……は?」

だって、今から私たち二人でコンテスト優勝者の記念撮影だ。去年こそ原田先輩を持ち上げられなかったから抱きしめるような形で撮られていたが、本来は男装者が女装者をお姫様だっこするものである。

「男装コン優勝者が、女装コン優勝者をお姫様だっこするでしょ」
「ちょっと待て……お前、俺のこと持ち上げるつもりなの?」
「うん。部活でも怪我した男子背負ったことあるし、いける気がする」

私たちのクラスも呼ばれ、文化部発表の紹介もされ、だんだんと舞台裏に人がいなくなっていく。私たちは目玉扱いなので、終盤に呼ばれるそうだ。

「無理でしょ。俺結構筋肉あるし」
「私も筋肉あるよ。試しにここでやってみてもいい?」
「えー絶対無理だってー、普通にハグでいいじゃん」

原田先輩ならまだしも、成宮くんなら持ちあげられるんじゃないかな。そう思ったのだが成宮くんは呆れた顔をする。「舐めんな」と言いながらもひざを曲げて、私に付き合ってくれる様子だ。成宮くんの近くで中腰になり、なんとか試行錯誤していると、

「わ、」


がくんと、ヒールが傾いた。
咄嗟にしゃがみ込む。多分、痛めてはいない。


「っ糸ヶ丘!?」
「だ、だいじょうぶ!捻ってはいないから」
「だから言ったじゃん!バカ!アホ!何してんの!」
「いやほんとすみません……持つの無理です、去年のスタイルで行こう」
「……歩くのも無理じゃない?」
「それは多分……まあ、大丈夫かな……」


「成宮さん、糸ヶ丘さん、登壇お願いしまーす」

しゃがみ込む私の足首を見て、心配そうにしてくれる成宮くん。過信してしまった私のせいで、とんだ迷惑をかけてしまった。文化祭で浮かれていたつもりじゃなかったのに、浮ついていたのかもしれない。惨めな気持ちになってくる。

「ご、ごめん歩ける!大丈夫だから!」
「意地はらない!無理なら俺も出ないから!」
「いやいやいや流石にそれは駄目でしょ。みんな待っているし」
「糸ヶ丘だけ置いていけないし」
「こんな嫌いなやつのこと置いて、成宮くんなら一人で盛り上げられるから」
「そんなことない」
「え、」



「糸ヶ丘のこと、嫌いじゃない」



目線を合わせるように屈んで、まっすぐこっちを見つめる成宮くん。学祭委員会の人が、また私たちを呼ぶ。



「……俺、言ったよね」
「な、何を」
「俺の方がかっこいいって、全校生徒に認めさせてやるって。今もその気持ちだよ。俺のファンも糸ヶ丘のファンも、陸上部も野球部も、雅さんもカルロも委員長も、みんなみーんな、俺の方がかっこいいって認めさせてやるんだ」
「なんで今その話、」
「だーかーらー!」


「ここで女の子ひとり助けられない男、全然かっこよくないよねって話!」



そういって、成宮くんは私の背中に手を回し、もう片方の腕を膝に回した。


「わ、ちょ、ちょっと!」
「舌噛まないでよ!今から登壇なんだから!」



そのまま階段を昇る成宮くん。体育館のステージはすっごくまぶしくて、思わず目をつぶる。わあっと大歓声が、耳に響いた。

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