小説 | ナノ


▼ 033

「糸ヶ丘もコンテストか」
「はい、準備参加できないならと頼まれまして」
「どいつも同じ理由だな」
「俺も!俺もだから!」
「お前は自分で立候補したんだろ」
「そうなの?」
「ち、違うし!」

原田先輩と合流して、原田先輩たちの屋台まで向かう。先ほどまですぐ声をかけられていたが、合流してからはなかなかそういう声かけはなかった。そりゃあいくら何でも先輩と喋っている成宮くんに声はかけにくいだろう。

「そういえば、絶叫大会見ましたよ」
「そうか」
「つまんなかったよね〜応援への感謝なんて、散々言ったじゃん!」
「いくら言っても足りねぇくらいだろ」
「そういうのは行動で示すの!プロ行っても頑張りますでしょ」
「ドラフト終わってもいねえってのに言えるか」
「えっ原田先輩プロになるんですか!?」
「声がかかればな」

プロ野球選手。高校野球はテレビでも大きく取り上げられているので卒業後すぐプロになる人がいるのも知ってはいるが、こうして身近にいると驚いてしまう。そうこうしていれば、中庭に着いた。焼きそばの屋台は遠目からみても大盛況だ。原田先輩と成宮くんが来たことで、更に大きな声があがる。

「はー、すごいですね」
「言っておくけど、俺もプロ行くからね」
「あと1年もあるから分かんないでしょ」
「雅さんだってまだ分かんないし!」

「お前ら、普通の焼きそばでいいのか?」
「あ、はい!お願いします」
「雅さん俺大盛り〜」

財布から小銭を取り出そうとしたが、大きな手に止められる。原田先輩の手だ。

「奢ってやる」
「え、ダメですよ。集計もしますし」
「あとで俺の金入れるから問題ねえよ。つーかこいつは奢られる気だからな」
「雅さんありがと愛してる!」
「愛すな。早く持ってけ」

一切財布を出さない(というか、今気付いたが財布を持っていない)成宮くんに向かって、そういいながら焼きそば2パックを渡してくれた原田先輩。
成宮くんに気付いた人たちが、他の屋台から流れてきている。シッシッと追い払うような手つきをする原田先輩に頭を下げて、空いているベンチを探した。


***


「あ、美味しい」
「焼きそばなんてどれも同じじゃん」
「たまにある油っこいのあったりするでしょ、ああいうの苦手なの」
「あー確かに」

時間帯も昼時なせいか、なかなか居場所が見つからなかった。仕方ないので食べたい物を買い込んで、成宮くんのクラスが荷物置きに使っている空き教室に向かう。私たちのクラスと違い、待機人数もいらないので全然人がいないのだとか。たどり着くと案の定、誰もいなかった。

「でもすごいね、原田先輩」
「どっかからは声かかるだろうね」
「あ、その話じゃなくて」
「プロの話じゃないの?」
「手貸してくれたり、奢ってくれたり、そういうの」

かっこいいよねえ。そうこぼしながらアイスフロートを吸う。ちょっと溶けていた。

「エース様への気遣いと、単純に金余っているだけでしょ」
「そうだとしても、さらっとああいうことは出来ないよ」
「俺もできるし」
「財布すら持っていなかった人が何を」

成宮くんはたこ焼きを食べながら得意げにそういう。しかし、今日のところ、そんな様子は一切見えていない。成宮くんが自分の元へ引き寄せていたたこ焼きに手を伸ばし、私も1つもらう。というか、焼きそば以外は全部私のお金で買ったのに、どうして彼は我が物顔なんだ。
そう思ってちょっと向こうを睨んだのだが、成宮くんは当然のようにたこ焼きを食べて、私の方を何でもないような顔で見てきていた。


(……糸ヶ丘さ、その衣装似合っているよね)
(? ああたこ焼きと?浴衣だから縁日感あるよね)
(……お前はそんなだからダメなんだよ)

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -