小説 | ナノ


▼ 032

「糸ヶ丘と……おいおいメイちゃん、スカート長いんじゃない?」
「はー?優勝したらあとで短くしますしー」
「ギャハハ!マジでするのかよ!」
「男に二言はない!」

コンテストのアピールタイムこと晒し上げコーナーが終わり、私たちのクラスに戻ってきた。ずっと働き詰めだったはずの我がクラスのメンバーにも、どうやら既に成宮くんの宣言は伝わっているようだ。神谷くんと田中くんが早速その話題に触れてくる。成宮くんはそのままの恰好で、空いている席にどかっと座った。男らしいな。

「つーかよく鳴の入るサイズあったな。そんなフリフリ純白ワンピース」
「海外サイズらしいよ。糸ヶ丘!茶!」
「どれ?ほうじ茶でいい?」
「何があるの?」
「私が準備できるのはほうじ茶だけ」
「なら聞くなよ。ほうじ茶でいいよ」
「ホット?」
「冷たいの」
「アイスね」

よく考えたら別に私自身が準備しなくてもいいんだった。教えてもらった通り、ティーバッグでほうじ茶を準備する。抹茶なんかは色々手順があるらしい。せっかくだから教えてもっておけばよかった。

「はい、ほうじ茶」
「どうもー糸ヶ丘も飲まないの?」
「いや、私いま働いているから」
「えーちょっと休憩しなよ、ねえ委員長!」
「……成宮くんも今から休憩?」
「俺はずっと休憩〜」

何かを考えこんでいる委員長。この人は結構本気で優秀賞を狙っている。他クラスの成宮くんまで使って、何をしようというのか。

「……二人でこのあと看板持って校内回ってくれるならいいわよ」
「やった!糸ヶ丘も休んでいいって!」
「いや、私全然働いていないから流石にそれは」
「呼び込みの方が大事!これから客足減る時間帯だから!」

ほうじ茶を一気飲みした成宮くんに手を引かれ、委員長に背中を押されて私はクラスから追い出された。まず休憩していいと言ってくれたのでは……?

「やったね〜今からどこ行く?」
「うーん……というか成宮くん」
「ん?」
「誰かと回る約束、していないの?」
「全部断っちゃった。テキトーに休憩入ったやつに声かけようかなって」
「なら大丈夫ね」
「……女の子と約束してなくて安心した、とか?」
「人との約束すっぽかしていたらどうしようかと」

別に女子だろうが男子だろうが、その辺は問題じゃない。ともかく約束をしていたりしないのだろうか。そう思ったのだが、大丈夫そうだ。というか2日間フリーの状態なのに、誰とも約束していないのかな。本当に友達がいないのかもしれない。

「そんなことしないよ、失礼だなー」
「ごめんごめん。あ、ごはん食べた?」
「まだ!焼きそば食べたい!」
「いいね、じゃあ原田先輩のクラスだっけ」
「そうそう、無料でくれないかな〜」
「ちゃんと払いなよ……」

そういえばほうじ茶のお金も払わずに出てきたな。言っても払ってくれる気がしないので、あとで私の財布から出すしかなさそうだ。





3年生の屋台は外にある。3年生は受験で忙しいため、準備に時間のかかる教室出店は2年生で、3年生は準備が少なく、そしてともかく稼げる屋台をするというのが毎年の流れである。
私たちのクラスから屋台まではさほど遠くない。遠くないはずなのだが、一向にたどり着かない。なぜかって、そりゃあ。

「イェーイ!可愛く撮ってよねー」
「次は?一緒に撮る?いいよー」
「コンテストの衣装だよ!投票よろしくー!」

鳴ちゃんフィーバーを舐めていたからだ。



「糸ヶ丘ー?なんでそんな隅にいるの」
「いやあ、なんだか圧倒されちゃって」

普段だって色んな人に声をかけられているのをみるが、まさかここまでとは。稲城生ではない女子から、次々と写真を求められている。私もたまにシャッター係をしていたけど、自撮り棒を持った子が来たので邪魔にならないよう離れたところで立っていた。

「ふふん?校内人気だけの糸ヶ丘さんとは違って?全国的な人気ですけど?」
「そんな天気予報みたいな」
「あれれー?糸ヶ丘さん嫉妬ですかー?女の嫉妬は見苦し……っぐえ!」


「おい脳内快晴野郎、邪魔だ」
「雅さん!痛い!」


成宮くんの頭を掴んで廊下の端に追いやったのは、原田先輩。頭を掴んでいない方の腕には、大きなビニール袋が入っている。買い出しかな。

「雅さん買い出し?使われてやんの」
「お前と違ってちゃんと働いているんだよ」
「失礼な、俺だって呼び込みしてるよ!」
「おい、階段危ねえぞ」
「スカートで下見えない!」
「手貸してやろうか」
「姫扱いすんな!王様扱いして!」
「(すごい発言だな)」

ならちんたらしている暇はないと、原田先輩は先を急ごうとする。もしかして、麺が足りなくなっているのだろうか。

「あのー、もしかして今焼きそば品切れですか」
「まだあるぞ。これは補充だからな」
「よかった!成宮くん、早く買いに行こ」
「雅さんの奢りー!」
「金払え」


(つーかお前、すげえ恰好だな)
(去年の雅さんよりマシー)
(でも原田先輩の衣装、背中の筋肉凄かったですよね)
(はー?俺だってすごいし!)
(こんなとこで脱ぐな、殴るぞ)

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