小説 | ナノ


▼ 031

「「「「かのえちゃんかっこいいーっ!」」」」
「えへへ、ありがと」

文化祭当日、今日ばかりはクラスの手伝いも早々に切り上げて、コンテストの準備をしていた。クラス出店の宣伝も兼ねているので、バリバリの和装である。

「おー、糸ヶ丘かっこいいじゃん」
「神谷くんほどじゃないけどね」

結局、なぜか成宮くんの案が採用されて、我がクラスは浴衣カフェを開催中だ。本気になった委員長が神谷くんサイズの浴衣を探してお直しまで頑張ったおかげで、ばっちり決まった姿の神谷くんが立っている。

「これからコンテスト? 体育館だっけ」
「そうだよー頑張って宣伝してくるね」
「午後からの結果発表は見に行くから」
「あはは、成宮くん目当てね」
「野球部総出で応援してやらねえとな」

あれだけ文句を言っていたのに、なぜか成宮くんは出ることになっていた。本人からは聞いていないのだが、彼のファンらしき女の子たちが騒いでいるので自然と耳に入ってきてしまっている。あれだけ嫌がっていた手前、触れていいのか分からないまま当日だ。多分会場にはいるよなあ、会うよなあ。八つ当たりされなきゃいいけど。


***


「糸ヶ丘!?盛りすぎじゃない!?」
「えっそんな派手かな?ナチュラルメイクにしてもらったんだけど……」
「じゃなくて、身長!」
「ああ、これは盛りました」

なかなかに高さのあるヒール。正直コケそうで怖いので、壇上以外では履かないつもりだ。

「糸ヶ丘ってヒールとか履くんだ」
「ここまで高いのは初めて履いたかな」
「スッ転んで怪我とかしないでよ」
「気を付けます」

成宮くんと出くわしたのは、コンテスト出場者の待機場所。体育館の舞台裏だ。私は教室で準備を済ませてきたが、仮装姿で動きたくない人はここで準備をする。成宮くんもそのタイプだったようで、ずっと前からいたらしい。

「成宮くんは……あの、」
「そりゃこうなるよねー」
「ごめん……ふふっ」
「思い切って笑ったらどう?」

顔は可愛い。男らしいフェイスラインはゆるふわロングのウィッグで誤魔化している。しかし、どう足掻いても隠せない彼の体格が、半袖と膝丈の可愛らしい真っ白なワンピースから見え隠れしていた。

「野球部って長袖が基本だから、腕や足見えるのレアだよね」
「でも長袖の方がよかったと思わない!?ゴリゴリの男じゃん!」
「それはそれでアリだと思うよ」
「えーそうかー?絶対隠した方がマシだったと思うのにさあ」

やはり足や腕を出すことに抵抗があるのか、衣装に文句を言っている成宮くん。せめてロング丈だったらこのたくましい足も腕も隠せたけど、これはこれで良いと思う。これだけ綺麗に筋肉がついている人、なかなか見られないし。

「いやでも、まさか成宮くんが出場するとは」
「……2日間暇だから仕方なくだよ」
「ねえねえ、写真撮ろうよ」
「やだ」
「えーせっかくなのに」
「だって後で撮るじゃん」

そんな約束したっけ。そう思って首を傾げていたら、あ、もしかして最後の優勝記念の撮影のことだろうか。

「成宮くん、優勝する気満々なんだね」
「もち!俺以外にいないでしょ?」
「でも女装コンテストの優勝候補は演劇部の先輩らしいよ」
「はー?演劇部なんて俺の敵じゃ……女子じゃん!?」
「男子だよ」

そう、今年は男装コンテストに演劇部は出ない。代わりに女装コンテストに本気の人が出ているのだ。
話には聞いていたが、想像以上に美しい人が待機場の奥にいる。見たことなかったけど、絶対あの人だってすぐ分かるレベルの美しさだ。おまけに着物なので成宮くんほど体型も気にならない。演技で慣れているのか、仕草までそこらの女子より美しい。本当に女性といっても信じられるくらいの美人さんだ。

「成宮くん、優勝危ないんじゃない……?」
「……俺様を舐めんなよ」
「何か手段でも?」
「ったりまえじゃん!見てろよ!」

そういって、真面目な顔でアピールタイムのために舞台へ上がっていった成宮くん。言う事はかっこいいんだよね。きっと、あんな恰好じゃなかったらときめいていたんだろうなあ。


(『優勝したらー!スカート10cm短くして登壇しまーす!』)
(……どんだけ負けず嫌いなの)

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