小説 | ナノ


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「ねえ糸ヶ丘!男装コンテスト出るの!?」
「あ、聞いたんだ」
「出るの!?」
「まあ……誰も出たがらないから……」

稲実祭の一大イベントといえば、このコンテストだ。

3学年すべてのクラスが一人は男女どちらでもいいから代表者を出さなければならない。私のクラスは男子が中心となってクラス出店を頑張ってもらう予定なので、雑務やこうしたイベントは女子に回ってきている。

「準備手伝えないなら出なさいって言われて」
「いや、本気で優勝狙っているだろ」
「……委員長はその気だよね」
「委員長?あの眼鏡?」
「そうそう、あの美人さん。演劇部なの」
「それ関係ある?」
「男装コンテストはいつも演劇部が優勝しているんだよ、去年の見てない?」
「あーあれね……ぷぷっ」

そういえば、去年の女装コンテストは原田先輩が取っていたはずだ。表彰式では随分と盛り上がっていたのを覚えている。

「そういえば記念写真でケバい王子とハグしてたねーあれが演劇部?」
「多分その人かな?ハグというかお姫様だっこもどきね。優勝者の記念撮影」
「? お姫様だっこしてたっけ」
「一応お姫様だっこなの。女子が男子持っての撮影。持てないからハグみたいになっちゃうけど」
「何それウケる!雅さんを持てる人とかいないっしょ!」

けらけら笑う成宮くん。まあ、それもこのコンテストの醍醐味だ。似合う似合わないじゃない、盛り上がるか盛り上がらないかだ。

だから私は怯えていた。今年は演劇部が男装コンテストには出場しないことに。そして、我がクラスの委員長が本気で挑もうとしていることに。

陸上大会で色んな種目に出ているおかげで、表彰される機会の多い私は、何かと顔を覚えられていることが多い。あと単純に陸上部は人数が多いので必然的に知り合いも多い。女装コンテストに出る男子の方が多いので、そもそも男装コンテストへの出場者が少ない。


自意識過剰かもしれないが、私に票の集まる要素が多すぎる。


「糸ヶ丘どうせ優勝でしょ?雅さんお姫様だっこするの?ウケるんだけど」
「いや、原田先輩は出られないよ」
「なんで!?あんなに面白かったのに!?」
「去年優勝したから殿堂入り」
「へーつまんないの」
「でも代わりに絶叫大会は出るんじゃない?」

もうひとつの一大イベント、絶叫大会を口にする。学園祭のイベントといえば、一日目は絶叫大会、二日目が男装・女装コンテストだ。

「絶叫大会って渡り廊下から告白とかするやつ?雅さん相手いないと思うよ」
「野球部は毎年応援してくれた人への感謝を叫んでいるんだってさ」
「そういえば去年もやっていたっけ。キャプテンがやってんだね」
「大体キャプテンか4番かエースって聞いたけど」
「!? 俺に話来てない!エース様なのに!」
「成宮くんは来年もあるじゃない。ここは最終学年の人でしょ」
「雅さんは毎年忙しいな……あ、」
「ん?」

心底つまんなそうな顔をしていた成宮くんが、突然顔をあげた。どうしたんだろう、名前を呼んでもこちらをじっとみるだけで反応してくれない。

「そうか……糸ヶ丘、男装コンテスト出るんだよね」
「そうだけど」
「……クラス戻る!」

かと思えば、突然立ち上がり、走って去っていってしまった。せめて借りた椅子くらい戻してあげたらいいのに。私はそっと、神谷くんの椅子を戻した。



(鳴、お前女装コンテスト出るんだってな)
(うっさいな!雅さんだって出たでしょ!)
(お前と違って頼まれたからだよ)
(俺だって3日前に頼まれていたから仕方なく!)

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