小説 | ナノ


▼ 029

「糸ヶ丘は学祭なにすんの?」
「何かの喫茶店」
「何かって何さ」
「衣装が決まっていないの」

本当なら執事喫茶で決定だったのだが、衣装代をどうするんだという話で揉めている。支給される金額で衣装も材料費も賄うとなれば、衣装に予算を回した分だけ提供するメニューが安っぽくなってしまう。それは避けたいという意見が多く出て、執事喫茶は一旦保留となった。

「そんなの浴衣とかで良くない?」
「浴衣かーありだねー」
「テキトーに楽なのでいいじゃん」
「そうだけど、せっかくだから凝った衣装もいいなーってクラスの女子が」
「女子ってすぐオソロイとか着たがるよね」
「あ、そうじゃなくて。神谷くんにかっこいい服装させたいみたいで……」
「は?」

ともかく今年のクラスは神谷くんを筆頭にスタイルの良い男子が多いので、彼らのコスプレを見たい女子が必死なのである。

「はあ?なんで?なんでカルロ?」
「だって神谷くん、スタイルすごく良いし」

浴衣もいいけどやっぱり洋装がいい。そういって騒ぐクラスメイトの勢いは怖かった。神谷くん本人はどうでも良さそうにしていたけれど。

「糸ヶ丘も見たいわけ?」
「うん、何でも似合いそうだよね」

他人事のようにしていたけれど、正直私も神谷くんの執事姿は見たい。絶対に似合うと思う。できれば本気の接客も合わせてみていみたいのだけれど、きっと神谷くんはいつもどおりのゆるーい接客なんだろうな。それはそれで面白そうだけど。

「そうかなーカルロが小綺麗な服着てもどうせカルロだよ」
「執事姿で薔薇の花束持ってほしいっていうのが女子みんなの意見です」
「……むしろそれ、カルロがやるって言わないんじゃない?」
「流石成宮くんだね、大当たり」
「だろうなーノリ悪いもんなあいつー。どっちにしろ似合わないだろうけど」
「いや、でも花束は似合うと思う、これは私の意見」
「ねーよ。カルロなんて葉っぱでいいよ。葉っぱ」

文句たれる成宮くん。そもそもこちらのクラスの出し物なんて関係ないだろうに、やっぱり自分が一番褒められていないと気にくわないんだろうなあ、この人は。

「成宮くんのクラスは何するの?」
「ん?脱出ゲーム」
「へー面白そう」
「そうかー?どうせ学生レベルじゃ大したもん作れないよ」
「成宮くんは何担当?」
「俺はアナウンス!録音しておくから当日何もしない!」

なるほど。それは考えた。
有名人である成宮くんがいればそりゃあ集客ができる。でもずっと働いてもらうわけにもいかない。しかし、アナウンスだけでもファンは来てくれるし、当日看板持って校舎を歩き回ってでもしてくれたら宣伝も抜群だ。

「じゃあこっちのクラスにも遊びに来てね」
「もち!糸ヶ丘もどうせ接客でしょ?」
「一日目はね。二日目は別の予定あるし」
「別の予定って?」

そう問われ、すぐに伝えるつもりだったのだけれど、ちょっと言い淀んでしまう。あのイベントに出場すること、まだ踏ん切りがついていないから。いや、出場することは決まっているんだけれど。

「……成宮くんって、女装コンテスト出ないの?」
「はあ?絶対出ない。クラス代表に推薦されそうになったけど断ったし」
「そっか」
「ていうか俺の顔が整っていようが女装は無理でしょ、ねえ?」
「まあ、体格もいいもんね」
「そう!そこ!他の野球部がデカすぎるだけで俺も十分鍛えてるっつーの!」

ほんと、嫌になっちゃう。そういって成宮くんはイライラしながら教室へ戻っていった。私の予定に対する興味、ほんと薄いだな。



(……っ! 糸ヶ丘って二日目何するんだ!?カルロ知ってる!?)
(米飛ばすな。あいつは男装コンテストだろ)
(男装コンテスト!?)
(去年雅さんが優勝していたやつの女子版)
(……雅さんの女装、コンテストだったんだ)
(趣味なわけねーだろ、ぶん殴るぞ)




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