小説 | ナノ


▼ 028

「糸ヶ丘って雑誌好きだよね」
「そうかな」
「この前もファッション誌見てたじゃん」
「あー、これも私のじゃないんだけど」

当然のようにこちらのクラスでやってきた成宮くん。もうなんの用事か聞くのも面倒になってきた。そして、当然のように神谷くんの席へ座る。

「また陸上部で回し読み?」
「ううん、今回はお母さんに渡された」
「なんで?」
「お祝いしてあげるから選べって」

インターハイ優勝で舞い上がった両親が、お祝いで旅行まで計画し始めた。当然そんな時間なんてないし、そもそもそこまでしてもらわなくてもよいので止めたのだが、そうしたら「じゃあせめて外食だけでも」ということで、この雑誌を渡された。

「へー、せっかくだしすげー高いとこ選びなよ」
「味分かる自信がしない」
「ここ一番高いんじゃない?夜景の見えるレストラン」
「両親と行くのにプロポーズプラン使ってどうするのよ」
「でもこういうヨーロッパっぽい凝ったデザイン、どうせ好きでしょ」

そういって、見開きページに載っていた超高層ホテルのプランを指さす成宮くん。確かに、日本離れした豪華な内装は、正直心惹かれる。

「よく分かったね」
「俺エスパーだからさ」
「ああ、勘ね」
「違うっての!前に買い物行った時、こんな雰囲気のよく見てたじゃん!」
「そういえば」

なるほど、そういえば買い物に行ったことあったっけ。お姉さんへの誕生日プレゼント選びを手伝うとの話だったが、結局成宮くんが自分で考えて選んだので私はふらふらしていただけだった。

「今更だけど、お姉さんの反応どうだった?」
「そう!それ!言おうと思ってた!」
「数カ月越しに思い出してくれてよかったよ」
「すっげーーー喜んでくれてさ、」
「それはよかった」
「なんかムカついた」
「なんでよ」

あの頃は成宮くんと本当に仲が悪かった。思い返しても、しようもない理由で突っかかられていた気がする。なんだか懐かしい。なんて思っていたのだが、結局今も彼の感情の起伏は読めないままである。仲良くなっているって言っていいのかな。

「結果、糸ヶ丘のおかげみたいじゃん」
「私ほぼ何もしていないよね」
「でも姉ちゃんに『誰からアドバイスもらったの?』って聞かれたんだよ」
「お姉さんの直感すごい」
「成宮家は勘がよく働くんだよ」
「じゃあそんな成宮家の鳴さんや」
「なんだね」
「この中で良さそうなお店を選んでみてください」

もう考えても分からなくなってきた。そもそも外食自体そこまでしないのに、突然こんな高そうなお店を見せられても分かるはずがない。しかし、母がこの雑誌を渡してくれたということは、そこそこのお店に連れて行ってくれようという意思があるわけだから、ないがしろにもできない。

「うーん、俺の直感だと……あ、この店オススメ」
「オススメ?」
「前に行ったことある。肉すっげー分厚くて美味しかった」
「勘じゃなくて経験則だね」
「でも確実でしょ?しかもこの俺の舌という信頼!」
「……ねえ、このお店すごく高いんじゃ、」
「値段なんて知らないよ、俺は財布出さねーもん」

他のページもめくっていくが、他にはピンとこないらしい。美味しそうと口にするが、勧めてくれることはない。まあ実際に行ってよかった店があれば、そちらを勧めるのが当然か。というか、この雑誌に載っているお店って、多分どこも良いお値段したはずだが。

「……成宮くんて、もしかして結構良い暮らしをされているのでしょうか」
「んー?別に普通だと思うよ」
「普通の家庭で育った私は、こんなお店行ったことないですね」
「ならとりあえずこのお店行ってきなって、成宮家と同レベルになるよ!」
「そうだね、せっかく教えてもらったし、ねだってみる」

その後、帰ってから伝えてみたら案外すんなり私の意見は通った。言ってみるもんだな。


(でもかのえがちゃんと考えてくるなんてねー、誰かに相談した?)
(した)
(だと思った、こんなセンス良いお店選べないもんね)
(娘に向かってなんと失礼な)
(ふふっまあいいのよ、どうせ財布出すのはお父さんだもの)
(どっかで聞いたセリフだな……)

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