小説 | ナノ


▼ 026

「カールロ、糸ヶ丘の連絡先おしえて」
「どうして」
「同じこと本人にも言われた」
「そりゃそうだろ」

そういえば知らないと思って、糸ヶ丘に連絡先を聞こうとした。そうしたら理由を聞かれ答えられなかった俺は、結局あいつの番号を知らないままだ。だからカルロに教えてもらおうと、その日の夜、寮の部屋におしかけた。

「お前全然メールしないだろ」
「そうだね」
「糸ヶ丘に何か用事あるわけ?」
「いや……でもいざって時に困るじゃん」
「どういう時だよ」
「……インターハイ優勝した時とか」

そう呟けばカルロは軽く笑った。笑うな。

「いざって時に連絡したいからって言えば?」
「どういう時が?って聞かれたらどうしよう……」
「同じこと言えば?」
「そうすると1年後じゃん!遅いよ!」
「知るかよ。そもそもなんで糸ヶ丘の連絡先知りたいんだ」
「そ、それは」

糸ヶ丘のことが好きだからに決まってんじゃん。でもカルロに言いたくないし、そのまま「もういい」とだけ伝えてあいつの部屋を飛び出した。


***


「どうしたもんかなー……」
「何が?」
「うわっビックリさせないでよ!」
「ごめんごめん」

放課後の部活、休憩時間に部活棟の裏で涼んでいたら糸ヶ丘に声をかけられた。

「で、成宮くんは何か悩み事?」
「……べっつにー」
「そっか。喉乾いてない?」
「乾いてる」
「じゃあ糸ヶ丘さんが差し入れあげるね」
「……どーも」

俺の隣に置いてあるペットボトルが空だと気付いた糸ヶ丘が、自分の持ってきたスポーツドリンクを差し出してきた。飲んでいる途中かと思ったら普通に新品だった。そりゃそうか。半分くらい一気に飲んで、満足したので糸ヶ丘に返す。

「ありがと」
「え、全部あげるよ。甲子園の時の通話代だし」

そういえば甲子園でそんなやり取りをしたんだっけ、1分10円の通話料取るって。そしたら「それでもいい」って電話したがったんだ。糸ヶ丘が。糸ヶ丘が俺と電話したいって言ったんだ。なのに連絡先は教えてくれない。

「もういい、持っていくの面倒だし」
「じゃあもらうね」
「どーぞ」

そのまま飲むのかなーと思って見ていたら、糸ヶ丘に「何なの」と睨まれた。何となく口の動きを目で追ってしまって、恥ずかしくなってしまう。どうしたんだよ俺。

「別に間接チューとか気にしないよ」
「そうなの?どうしたものかちょっと悩んでた」
「ま、手作りのお菓子とかはヤだけどねー」
「あー、知らない人からだと確かに……」
「……糸ヶ丘も色々あるんだね」

こんなことをいうと、大体先輩たちから「モテる男はわがままだな」と怒られたりしてきた。が、どうやら糸ヶ丘は昔なにかあったらしい。別に俺は変な物入れられたとかそういうのが実際あったわけじゃないけど、この様子は実際に被害があったんだろう。

「でも最近は私への差し入れも少ないから」
「そうなの?増えそうだけど」
「先輩が断っているの。キリないからって」
「糸ヶ丘は全員に返そうとするからじゃん」
「成宮くんもそうしょ?」
「そ、そうだけど!」
「……あらそう」

そういえば昔、後輩の女子へ誕生日プレゼントを返していた糸ヶ丘を見かけてそんなことを言った記憶がある。あの時は見栄張っちゃったけど、ぶっちゃけ一度も返したことなんてない。

「……ごめん嘘ついてた」
「別にいいよ」
「何がって聞かないんだ?」
「お返し、していないんでしょう?」
「知っていたわけ!?」
「うちの後輩が差し入れいったことあるんだよねー」

どうやら、俺が昔ついた嘘を信じた糸ヶ丘が、後輩に「成宮くんはきちんと全員にお礼をしている」と伝えてしまったらしい。そしてそれを信じた後輩が俺に差し入れをしてくれた、と。やっべえ、全然誰か分かんない。

「あの後すっごく大変だったんだから」
「しっ仕方ないじゃん!でもお礼はちゃんと言葉にしてるし!物まで要求するなんて図々しくない!?」
「なら最初からそう言ってくれたらいいのに」
「だって糸ヶ丘に負けたくなかったんだもん!」
「負けって……別に競うことじゃないでしょ」
「でもさあ!」
「あ、じゃあ行動で示してよ」
「あん?」

糸ヶ丘は立ち去ったかと思えば、紙を持って帰ってきた。そういえば陸上部の部室がこのすぐ裏だっけ。

「よかったら応援に行ってあげて。新人戦無理なら記録会でも」
「糸ヶ丘も出る?」
「出るよ。差し入れした後輩は長距離だからこっちのスケジュールでね、」
「糸ヶ丘が出る時に行く」

思わず口走ってしまった言葉に、糸ヶ丘が目を丸くする。しまった、これじゃあ糸ヶ丘を観たい人だ。いや、糸ヶ丘を観たい人なんだけど。

「私は長距離とスケジュール別だよ?」
「でも行く!教えて!」
「いいけど……ケータイ持ってる?写真撮っていって」
「持ってない!」
「じゃあ今度コピー持っていくね」
「メールでもらう!糸ヶ丘の番号教えて!」
「? 別にいいけど……今覚えられる?」
「当然!」

二人とも部活中でメモも何も持っていないから、今すぐ連絡先を交換するってなると覚えるしかない。大丈夫かと心配する糸ヶ丘をよそに、いいからいいからと急かして11ケタの数字を教えてもらった。



(成宮くん、記憶力いいんだね)
(ま、天才ですし?)
(こいつ「忘れた」つって俺に聞いてきていたぞ)
(カルロはなんですぐ言うの!!!!)
(成宮くんはなんですぐ嘘つくの)

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